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僕の愛する未亡人
第11章 僕の愛する未亡人
今日は、佳織と過ごした日から約一週間ほど過ぎた金曜日だった。
冴子は慣れた様子でクールに仕事をこなしており、平常を取り戻している。
だが、理央や佳織の会話話は必要最低限、視線を交わすこともほとんどなかった。
理央は少しばかり残業をして、十九時頃に会社を出た。
夜風はやや湿っていて、週末の人波が駅前を埋めている。
いつもより混んだ電車に乗り込み、ドア近くのつり革を握った。
数分ほど立って、ふと、どこかで感じる既視感のような気配。
香水の匂いでも、服の色でもない。
視線を動かすと、数メートル先の座席に、伏せた顔――佳織がいた。
人の肩越しに見えるその姿は、いつもよりどこか小さく見える。両腕を前に固く組んでいるからだろうか――身動きの取れない理央は、最初、背後に立つ男の距離が偶然の近さだと思った。
だが、彼女の顔がほんのわずかに歪む。
痛みに耐えるような、息を殺すような表情。
理央の心臓が一瞬で跳ね上がった。
彼女のすぐ背後に立つ男の肩が、わずかに不自然に動いている。
理央は躊躇なく体を押し込み、「本間さんっ」と小さく名前を呼んで佳織の背後に割り込むように立った。
ベージュ色のスカートが不自然にまくれていたのが、ゆっくりと元の位置に戻っていく。
(スカートの中まで……?!)
佳織の顔を覗き込むと、泣きそうになっている。
男は一瞬目を泳がせると、気まずそうに体を逸らす。次の停車駅のアナウンスが流れると同時に、人混みに紛れ、車両を降りていった。
「待てよっ」
理央とは思えない乱暴な口調、大きな声。佳織の腕を引きながら、同時に二人も降りる。
「す、すみません、触られて……ましたよね? 捕まえられなくて……」
人混みを避けるように、理央はホームの隅で声をかける。佳織は小刻みに震えていた。
理央の声に、佳織はハッとしたように顔を上げた。
駅のホームの冷たい風が、彼女の乱れた前髪を揺らす。佳織の目からは涙がこぼれ出る。
「ち、痴漢なんて、今までされたことな……くて……こわ……かった」
かすれた声でそう言う。
「か、帰りたくない……こんな状態のまま、息子に会えな……い」
佳織はぐしゃぐしゃの顔を理央の胸元に押し付ける。
冴子は慣れた様子でクールに仕事をこなしており、平常を取り戻している。
だが、理央や佳織の会話話は必要最低限、視線を交わすこともほとんどなかった。
理央は少しばかり残業をして、十九時頃に会社を出た。
夜風はやや湿っていて、週末の人波が駅前を埋めている。
いつもより混んだ電車に乗り込み、ドア近くのつり革を握った。
数分ほど立って、ふと、どこかで感じる既視感のような気配。
香水の匂いでも、服の色でもない。
視線を動かすと、数メートル先の座席に、伏せた顔――佳織がいた。
人の肩越しに見えるその姿は、いつもよりどこか小さく見える。両腕を前に固く組んでいるからだろうか――身動きの取れない理央は、最初、背後に立つ男の距離が偶然の近さだと思った。
だが、彼女の顔がほんのわずかに歪む。
痛みに耐えるような、息を殺すような表情。
理央の心臓が一瞬で跳ね上がった。
彼女のすぐ背後に立つ男の肩が、わずかに不自然に動いている。
理央は躊躇なく体を押し込み、「本間さんっ」と小さく名前を呼んで佳織の背後に割り込むように立った。
ベージュ色のスカートが不自然にまくれていたのが、ゆっくりと元の位置に戻っていく。
(スカートの中まで……?!)
佳織の顔を覗き込むと、泣きそうになっている。
男は一瞬目を泳がせると、気まずそうに体を逸らす。次の停車駅のアナウンスが流れると同時に、人混みに紛れ、車両を降りていった。
「待てよっ」
理央とは思えない乱暴な口調、大きな声。佳織の腕を引きながら、同時に二人も降りる。
「す、すみません、触られて……ましたよね? 捕まえられなくて……」
人混みを避けるように、理央はホームの隅で声をかける。佳織は小刻みに震えていた。
理央の声に、佳織はハッとしたように顔を上げた。
駅のホームの冷たい風が、彼女の乱れた前髪を揺らす。佳織の目からは涙がこぼれ出る。
「ち、痴漢なんて、今までされたことな……くて……こわ……かった」
かすれた声でそう言う。
「か、帰りたくない……こんな状態のまま、息子に会えな……い」
佳織はぐしゃぐしゃの顔を理央の胸元に押し付ける。

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