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僕の愛する未亡人
第15章 欲しがる未亡人 本間佳織④
ホテルの自動ドアをくぐる瞬間、三人の空気がぎゅっと収縮する。ホテルはシティホテルとして普段は使われているようだった。
だが、冴子を見るなり、「いつもありがとうございます」とフロントが言う。
理央も佳織も、さすがにぎょっとした。
佳織は三人分の使用料金を払い、受付は手慣れた手つきで鍵と、もう一人分のアメニティやバスタオルを渡す。
あまりに生々しかった。

エレベーターに乗り込むと、佳織は、呼吸を整えながら理央と冴子をちらりと見た。どきん、どきん、と胸が高鳴ってしまう。
ドアの前に着くと、冴子が鍵を受け取る。「ここの鍵、開けにくい時あって」と苦笑した。フロントの口ぶりからも、相当このホテルを使っていることがわかる。
冴子が鍵を開け、三人で中に入ると、外の雑踏とは切り離された静けさがあった。
冴子はすぐさまブーツからスリッパに履き替え、荷物をソファーに置くと、黒のライダースを壁にかかったハンガーにかけた。

緊張していて分からなかったが、あの日嗅いだ、濃厚な香水の匂いが漂う。
佳織は思わず、唇をきゅっと噛んだ。今にも抱きつきたくなる匂いだった。
「緊張する?」と理央が尋ねた。
「うん」と佳織は正直に吐き出す。嘘はいらない気がした。

「佐藤くん、先にシャワー浴びておいで」

その言葉のせいで、何かが動き出す気配と、それを確かめるための慎重さがないまぜになった空気感となる。
理央がバスルームに向かったあと、冴子は二人がけのソファーに落ち着きのない佳織を座るように促した。
冴子も佳織の左隣に座る。佳織は我慢できなかった。
思わず、冴子の体を抱きしめた。

「わっ」

半ば押し倒すように佳織が体重をかけたせいで、冴子が声を出す。

「本間さん、緊張してると思ったら大胆……」

冴子が言い終わる前に、佳織は冴子の肩に額を軽く当てる。

「匂い……ずるい」

「ふふ、今日はそういう日だから」

当たり前のように言う冴子に、胸が締め付けられる。

「ここは……いつも使うの」

「うん。知らない男、自宅には入れたくないけど、近いところがいいので。あと、複数も使用可だし」

冴子の声は、軽い冗談のようでいて、どこか影を落としていた。
佳織はその言葉に反応するように、冴子の肩に腕をまわした。
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