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はなびら
第1章 はなびら
手がわなわなと震え、滲みだした汗でスマホを滑り落としそうになった。

<症状が出ていない期間も感染力を持ち、体内は悪化の一途を辿っており、いずれもしばらくすると症状が消えるが、治療をしないまま放置していると、精神症状や認知機能の低下などを伴う進行麻痺、歩行障害などがみられることもある>

「朱里、お前一体何を」
矢崎はスマホから顔を上げたが、朱里の姿はもうホテルのエントランスを出て行ったところだった。

───梅毒は、朱里を起点に、俺に感染し、雪子に伝播し、その後朱里と関係した西野にも・・

表示された文字を目でたどりながら、矢崎は息が苦しくなるのを感じた。

突然スマホの画面が変わり、手の中で呼び出し音が鳴り出した。
雪子の名前が表示され、矢崎は血の気を失った冷たい指で通話ボタンをフリックした。

「浩介さん?残業中にごめんね・・・あのね、どうしても早く知らせたくて、電話しちゃった・・・、私ね・・・」

矢崎の膝ががくがくと震え出す。

「赤ちゃん、できたよ」

聞くなり、床にくずおれた。
先ほど画面に表示されていた文章の続きが、蘇る。

<妊娠している人が梅毒にかかると、流産、死産となったり、子が梅毒にかかった状態で生まれる先天梅毒となることがある>

目の前が真っ暗になる。矢崎は無意識のうちに通話終了のボタンを押していた。

そこで再びスマホが振動し、ラインのメッセージが表示された。

「以上、感染の告知でした。関係した人やパートナーに知らせ、必ずお医者さんに行ってくださいね。さようなら。 朱里」


【おわり】
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