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忘れたい彼なのに
第1章 忘れたい彼なのに
 深夜に夢から醒めるとスマホの通知音がした。私の裏アカウントに『牝奴隷・梨杏へ』というDMが届いたところだった。恐る恐る読む。彼からだった。
ー東京で元気に生きている。偶然みつけた裏アカをずっと読んでいて梨杏と確信した。お前は俺にしなくてはならないことがあるはずだ。1週間後の日曜日。●●というラブホテルで待っているー
 そんなことが書かれていた。

 裏アカを始めたのは優しすぎる恋人への不満や欲求不満を解消するためだった。太腿や下着姿や胸の写真を載せたりもしていた。でも本当の理由は彼に私を見つけてほしかったからだ。でも現実になるなんて。どうしたらいいのだろう。

 今度の日曜日は恋人とデートの約束をしていた。場所は美術館。恋人の趣味だった。美術館デートは何度もしていたが、実は私は好きなふりをしているだけで飽きていた。
 
 恋人と彼の顔を思い出して想像する。美術館で饒舌に語る恋人の隣を歩いている私、つまらなそうな顔。いかがわしいラブホテルで彼に責められている私、恍惚とした顔。恋人の顔が薄れ彼の顔が濃くなる。

 そうだ、私は彼に会って謝罪しなければならない、この身体で。逃げていたけれど見つかってしまったからには仕方ない。

 恋人に地元の友達と数年ぶりに会えることになったと連絡する。優しい恋人は私の都合を必ず優先してくれるからこれで大丈夫。すぐに、わかったデートは中止しようと言ってくるはず。彼にはハートマークだけ送った。私と彼の間柄ならこれだけで私の思いが通じる。

 示されたホテルを調べたら本格的なSMホテルだった。彼らしい。そこで彼にどんなふうに責められるのだろう?私はどれだけの快感を得てしまうのだろう。どんな牝奴隷に堕ちてしまうのだろう。

 妄想しているうちに下半身に手が伸びていた。あの日彼に命じられてから、ずっと剃り続けている。

 また通知音が鳴った。恋人からだ。私はそれを無視して、今私とのプレイを想像して自慰しているであろう御主人様とのシンクロ自慰に没頭していった。
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