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助教 沙霧
第11章 告白
 それは、長年自分を縛り付けてきた「檻」が、内側から溶け出していくような感覚だった。

『私は、貴方の声一つで、公共の場で密かに発情してしまうような、卑しいメスです。
 学問の聖域を自らの情欲で汚し、それを貴方に捧げることに悦びを感じる、救いようのない罪人です。
 私は、……私は、誉さまの、奴隷になりたい。
 私の知性も、肉体も、未来も、すべてを貴方の足元に投げ出し、踏みにじられたい。
 それが、私の本当の、唯一の「告白」です』

 送信。

 その瞬間、沙霧の視界は真っ白になった。
 すべての虚飾を剥ぎ取り、魂を剥き出しにして差し出した。もう、後戻りはできない。
 これから先、彼女を待っているのは、ストイックな研究者としての輝かしい未来ではなく、一人の男の支配下に置かれ、魂の底まで調教されるという、甘美で残酷な地獄。
 
 脳裏に、古今和歌集の一節が木霊する。

   『ひさかたの 光のどけき 春の日に 静心なく 花の散るらむ』
 ――こんなにも光が穏やかな春の日に、どうして桜の花は、これほどまでに落ち着きなく散り急ぐのだろうか。
 
 散りゆくのは、彼女のプライドだった。
 崩れ落ちるのは、彼女の過去だった。
 
 沙霧は、冷たい床の上で体を丸め、声を上げて泣いた。
 それは、悲しみの涙ではない。
 ようやく「本当の自分」に出会えたことへの、狂おしいまでの歓喜と、これから始まる運命への、底知れぬ恐怖の混じり合った、叫びだった。
 
 闇の向こう側で、誉が微笑んでいるのが見えた気がした。
 
「……沙霧。よく言えましたね」
 
 その幻聴を耳にした瞬間、彼女の意識は深い、深い、悦楽の深淵へと沈んでいった。
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