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助教 沙霧
第16章 鏡の中の告発
 深夜の静寂は、時として刃物のように鋭く研ぎ澄まされる。

 沙霧は、冷え切ったバスルームのタイルからようやく腰を上げた。指先にはまだ微かな痺れが残り、太ももを伝った熱い雫が、自らの堕落を証明するように冷たく乾き始めている。

 彼女はもう一度、鏡を覗き込んだ。
 暗闇に浮かぶその姿は、一見すれば昼間の彼女と変わらない。知性を湛えた額、意志の強そうな眉、そして短く切り揃えられた清潔な黒髪。しかし、鏡の中の瞳は、自分自身の奥底を告発するように冷ややかに光っていた。

 ――貴女は、本当にあの「瀬川沙霧」なの

 和歌の調べに高潔な精神を見出し、俗世の情欲を「研究対象」としてのみ扱ってきた、あの誇り高き若き助教、瀬川沙霧。

 沙霧は、その鏡の中の自らの視線から逃れるようにバスルームを後にし、リビングのデスクに向かった。

 机の上には、明日までに校正を終えなければならない論文の下書きと、翻刻の資料が積み上げられている。普段なら、その整然とした知の連なりこそが彼女の安らぎだった。だが今は、並んだ文字の一つ一つが、彼女の淫らな行為を嘲笑う目に見えた。

 メールの着信を知らせるスマートフォンの青い光が、再び音もなく灯った。

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