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助教 沙霧
第19章 表の顔 裏の顔
 沙霧は、自分の人生を賭けて積み上げてきたはずの学問的な業績や、周囲からの尊敬、そして自分自身の誇りが、誉という男の言葉一つで、いかに容易く崩れ去ったかを思い返していた。それは恐怖であり、同時に、これまでの人生で一度も味わったことのない、魂を震わせるような歓喜でもあった。

   理性の砦を自ら壊し、一人の男の足元にすべてを投げ出したこと
   自分の精神も、肉体も、すべてが誉という主の支配下となったこと
   それを他でもない、沙霧自身の本能が望んだこと

 その事実が沙霧の、一見昨日までの何も変わったところのない日常を、淫靡な色彩で塗り替えていく

(主さま……次は、何を私に命じられるのですか……)

 沙霧は、震える指でスマートフォンの画面をスワイプした。誉からの連絡はない。その「沈黙」が、沙霧の焦燥感を煽り、心の奥底から湧き出る被虐願望を抑えることができない。

 彼女の「表の顔」は、今もなお、非の打ち所のない気鋭の若手研究者のままだ。
 だが、その仮面の下にある「裏の顔」は淫らな被虐の妄想にかられている。ただ一人からの支配の鎖がその姿を表すことを切望する、「奴隷」としての確固たる輪郭が形づくられようとしていた。
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