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甘い飴と甘い鞭
第7章 はじまり
どのぐらい泣いていたんだろう。
だけど、理性ではこの部屋を借りてる時間のことはしっかりと頭にあって。
おれは、シャワーで泣き顔と体を洗ってからホテルの部屋を後にした。
ふらふらとした足取りで、帰路に就くおれの腕を誰かが引く。

「待てよ。……待てったら」

どうせ質の悪い酔っ払いだかだろうと踏んで、おれは腕を振りほどこうとして背後を振り返る。
その姿に喉がひゅっと鳴った。
ジェイだ。

「そんなふらふらで歩いて帰るのかよ」
「なんでアンタが居んの」
「……タレコミ」
「はぁ?」
「お前を売ったやつからのタレコミ」

意味がわからない。
呆然として立ち尽くすおれの腕をがっしりと掴んだジェイはそのまま片手を振り上げて、路肩にタクシーを呼び止め、おれを押し込んで乗り込んだ。
車内では、口を利かずにおれは窓に頬を預けて、流れて行く見慣れない景色を見つめていた。
嫌な予感がしていた。
おれを垂れ込むのなんて、一人ぐらいしか思いつかない。
だけど、それが一番信じたくないことだった。
タクシーが止まる。
賃金をスマートに携帯端末で支払ったジェイは、再びおれの腕を引っ張ろうとする。

「……わかってるから離せ。自分で歩ける」
「強情な姫さんだことで」
「うるさい」

ジェイに吠えて腕を引き、おれは家の前に立つ。
ああ、癪で仕方がない。『ここ』が、おれの家なんだということ。
なけなしの気力で立ってはいるけれど、少しでも気を抜いたら両手を付いて這い蹲って泣きたくなりそうだった。
涙が滲むのを、唇を噛んで耐える。
鍵を開ける手が震えるのを、横からジェイが鍵を奪って扉を開いた。
おれは、マラソンのスタートダッシュのように扉が開いた瞬間、駆け出してベッド目掛けて飛び込んだ。
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