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スパイ少女は奴隷になる
第7章 脱走

 私はもはや指一本動かす気にはなりませんでした。もう仕方ないと、ここで野垂れ死ぬのも、誰かに見つかって殺されてしまうのも、全て仕方ないと思っていました。少しづつ体の力が抜けていく中、突然ライトの光が私を照らし、泥や傷に塗れた見窄らしい自分自身の姿が顕になります。

「逃げられるとでも思ったのか?残念だったな、お前の首輪にはGPSが付いてる。逃げようとしたって無駄だ」

 その声は嶺二様のものでした。逆光でよく見えなくても、彼の姿だと分かりました。私は身体が泥だらけになるのも厭わずに土下座をしました。

「申し訳ございません……。嶺二様、何でもしますっ、だから命だけは……」

 それは必死の命乞いでした。私は自分の生き意地汚さに嫌気がさしました。諦めたように思っていたのに、彼の姿を見て、死の実感が湧くと、助けを乞わずにはいられませんでした。すると、土下座をしている頭をグリグリと踏まれます。

「なぜ脱走した?お前は自分のやっていることの愚かさに気づかないほど馬鹿ではないはずだ」
「そ、それは……その、手紙を……見つけて……私、殺されちゃうって怖くて……うぅ、ひぅっ」
「それで怖くなって逃げ出したのか?」

 私はただ頷くことしかできません。私にできることは何一つ無く、嶺二様が許すか許さないかだけが、この場のルールでした。
 しばらく沈黙が続いて、もうダメかと思った時、嶺二様は私をお姫様抱っこの形で優しく抱き抱えました。あまりに唐突で私は目を見開いたまま固まってしまいます。

「安心しろ、あんな手紙、気にしなくていい。俺の復讐が終わるまで、お前は誰にも殺させやしない……。だから……、帰るぞ、美柑」

 暖かい……、彼に抱きしめられた私は、その体温に深く安心していました。私はまた生き残ったのです。それもどちらも嶺二様の慈悲によって。そして、そのまま私は寮まで連れて帰られました。
 寮まで帰ってくると、彼は浴室で私の身体を洗い、湯船で冷えた身体を温めると、挫いた左足に包帯を巻いて、痛まないようにしてくれました。私はその全てを夢のように感じながら、最後に檻に入れられます。

「今日の出来事の罰は明日、たっぷりと与えてやる。だから、せいぜい今日は休め」

 彼がそう言って出ていくと、私は極度の疲労を前に、毛布を抱きしめて、その温かみの中で気絶するように眠ってしまいました。
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