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たゆんたゆん
第3章 看護師
「看護婦さーん。今日は何色?」

言いながらさりげなく尻を撫でようとした手をさっと避ける。

「ダメですよー新井さん。セクハラするために入院したんじゃないでしょー?」

「ちぇっ。つれねーなぁ、菜穂ちゃん」

毛むくじゃらの腕で頭を掻いたあと、頭の後ろで腕を組みため息を吐く新井さんは同年代の方と比べると髪は黒くて若々しく、もみあげが長い……要は毛深い。

「…あれ、私の名前知っているんですか?」

私は今日初めてこの人の担当となる。
この人のことは遠目に、立派な口髭は無いけれども毛黒い患者さんだなぁと失礼な印象を抱いていた。

「あったりめーよ。オジサン、可愛い子のチェックは抜け目ねぇぜ?」

「あははーありがとうございます」

笑いながら胸元に伸びかけた手を軽くはたく。

「宜しくなァ、菜穂ちゃん」

黄ばんだヤニだらけの歯を見せて笑う新井さんに私も愛想笑いで返した。
……今日はスケベな患者さんの担当か、気をつけないと。

★☆

「…はぁ? 授乳?」

日勤から夜勤の看護師へと切り替わる1時間前に、新井さんの元へ行くのが昼の看護師の日課らしい。
点滴はしてないし傷の消毒もないのになんでだと疑問を投げ掛けたら、そんな馬鹿げた単語が同僚の口から飛び出した。

「なにそれ」

不快感を露に眉を寄せると仕方ないよと彼女は言う。
なんでも新井さんは相当VIPな患者らしく、今まで誰も逆らえなかったらしい。
婦長アホですか。
強制的に退院させちゃえばいいんでしょうに。

「……そんなの、行く必要ないわ」

深く嘆息しながら言ったとき、腰のポケットに入ったPHSが震動。
ディスプレイに表示された名前に、怒りのあまり大股でナースステーションを出た。

★☆

「新井さ……、!」

名前呼びながら部屋に入って、はっとする。
この部屋、四人入る大部屋だった…!
ひとつ空きがあるけど、一人寝ててもう一人は…今は居ない。

「おぅ、菜穂ちゃんコッチだ」

四方をカーテンで囲った場所から呑気な新井さんの声がする。
一瞬頭の中が真っ白になったが慌てて新井さんのベッドに向かう。

「来たか。悪いんだけどよ、今日は腰が痛ぇからこのまま飲ませてもらっていいか?」
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