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万華のむつごと
第5章 二十年後の夏祭り
「志保が俺に最後にあてた手紙に、彫り物を透子に見せろって描いてあったんだ・・・

練習のために俺の背中に彫らせろ、って聞かなくてさ、兄貴を守る女神を彫ってやるからってさ。

あいつ、俺が透子と一緒にいられなくさせたのは自分だって、ずっと思ってたんだ。

背中に初恋の相手がいるって思うと、これ以上悪いことはできないって思ったし、俺は何かに守られてる気がしたことも何度もあった」

「健太」

透子は向きを変え、健太の胸に額を押し当てた。手を背中へ伸ばし、摩利支天の輪郭をなぞる。

志保───。

心の奥底からわき出す、えも言われぬ温かな想いと、もう自分の声が届かないのだという寂しさを感じながら、胸の内でそっと囁いた。




二度とあの過去に戻ることはできない。万華鏡が二度と同じ花を描かないように。


明日が来ればきっともう、私たちは会う事はない。

それでも私たちは、万華鏡を光にかざして覗くように、明るい方に顔を向けて、新しい花を形作っていくしかないのだ。


夜空を見上げる。
夏に降らないはずの雪が、空から舞い降りてくる気がした。


おわり
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