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万華のむつごと
第3章 夏祭り
透子は白地に金魚の染が入った浴衣に着替え、うなじのおくれ毛を撫でつけた。耳の上の髪をひと束引っ張って下ろし、鏡に映す。
たったひとすじの髪が耳元で揺れるだけで、自分の顔が女になって色づいた気がした。
神社の社殿の前で、志保と健太と落ち合う。すぐに志保の彼氏もやってきて、あっけなく二人は縁日の人ごみに呑まれるように姿を消してしまった。
大きな楠の影で、健太と透子は向かい合ったが、透子はうつむいたまま健太の顔を見ることができなかった。
「ねえ、こっち向いて」
健太のささやきが、縁日の喧騒をすり抜けるように透子の耳に届く。頬が熱くなり、体がこわばって動けない。健太の指先が透子の顎に触れてそっと顔をすくいあげた。
目と目が合う。
いつもは遠くから見ていた健太の綺麗に澄んだ瞳が、じっと透子だけを映し出す。
透子の胸の高鳴りは最高潮に達した。好き、と言われたら、どうすればいいのか、何と答えたらいいのか。浴衣の帯を締めているときも何度も考えたけど答えが出なかった。宿題を忘れて先生の前に立ったとき以上に、緊張で胸が締め付けられた。呼吸が浅くなってしまう。
健太の瞳が、揺れた。直後、顔が近づいて、唇同士が触れ合った。
透子の肩が激しく上下する。健太の手が、手首に触れ、腕を辿り、袖の下を滑り入り、肩に触れる。みぞおちから熱が駆け上がる。膝が小刻みに震えて、立っているのがやっとだった。
門限ぎりぎりの時刻に、透子は自宅の玄関前にもつれる足で帰って来た。
熱く乱れた息を整え、ドアの前で開きかかった浴衣の襟を直し、そっとドアノブを引くと、いつもの顔にもどって自室に向かって階段を上った。
窓から、満月が見えた。下腹が、熱を持って疼いていた。健太の決死の覚悟ともいえるほどの真摯な眼差しが何度もちらついて、透子は眠れない夜を過ごした。
その翌日。
志保と健太は姿を消した。
たったひとすじの髪が耳元で揺れるだけで、自分の顔が女になって色づいた気がした。
神社の社殿の前で、志保と健太と落ち合う。すぐに志保の彼氏もやってきて、あっけなく二人は縁日の人ごみに呑まれるように姿を消してしまった。
大きな楠の影で、健太と透子は向かい合ったが、透子はうつむいたまま健太の顔を見ることができなかった。
「ねえ、こっち向いて」
健太のささやきが、縁日の喧騒をすり抜けるように透子の耳に届く。頬が熱くなり、体がこわばって動けない。健太の指先が透子の顎に触れてそっと顔をすくいあげた。
目と目が合う。
いつもは遠くから見ていた健太の綺麗に澄んだ瞳が、じっと透子だけを映し出す。
透子の胸の高鳴りは最高潮に達した。好き、と言われたら、どうすればいいのか、何と答えたらいいのか。浴衣の帯を締めているときも何度も考えたけど答えが出なかった。宿題を忘れて先生の前に立ったとき以上に、緊張で胸が締め付けられた。呼吸が浅くなってしまう。
健太の瞳が、揺れた。直後、顔が近づいて、唇同士が触れ合った。
透子の肩が激しく上下する。健太の手が、手首に触れ、腕を辿り、袖の下を滑り入り、肩に触れる。みぞおちから熱が駆け上がる。膝が小刻みに震えて、立っているのがやっとだった。
門限ぎりぎりの時刻に、透子は自宅の玄関前にもつれる足で帰って来た。
熱く乱れた息を整え、ドアの前で開きかかった浴衣の襟を直し、そっとドアノブを引くと、いつもの顔にもどって自室に向かって階段を上った。
窓から、満月が見えた。下腹が、熱を持って疼いていた。健太の決死の覚悟ともいえるほどの真摯な眼差しが何度もちらついて、透子は眠れない夜を過ごした。
その翌日。
志保と健太は姿を消した。

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