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万華のむつごと
第5章 二十年後の夏祭り
深夜。

夜の神輿渡御を終えた担ぎ手のうちの数人が、酒に酔って喧嘩を始めた。

町内会の役員として、担ぎ手たちの休憩所にいた透子とそのほかの女性たちは、男たちの乱暴な諍いになすすべもなく、ただおたおたと見守るしかなかった。

そのとき、片方の男が興奮して拳を振り上げた。

あぶない。女たちが悲鳴ともつかぬ声を上げた瞬間。

男の前に滑るように乗り出した男がいた。さきほど万華鏡を拾った雪駄の男だった。隣町の神輿会の法被を着たその男は、勢いよく飛んだこぶしを目の上に受けた。血のすじが一筋流れ落ち、取り囲んで騒ぎを見ていた人々がざわめいた。

「神様がいる前だぜ、このくらいにしとかねえか」

男は落ち着きを払った声で言ったが、真っ赤な血で顔半分が濡れている。その迫力のある異様な姿に、喧嘩していた男たちは押し黙り、怯えて息を呑んだ。そうして喧嘩は止んだ。


「傷の手当てを」

救護室として用意していた透子の舞踊教室に、男を連れて行った。築百年になる和風の平屋建ての板張りの部屋に男を座らせ、傷にワセリンを塗って止血した。

「喧嘩を終わらせる目的で、わざとケガをしたんですか?」

透子は少し呆れる想いで男に言った。男は透子にされるがまま、おとなしくうつむいて答えた。

「事情があって、人に手ぇだすわけにいかないから」

その一言で、男が血なまぐさい修羅場をくぐった経験があるのは察しがついた。

大きな肩に太い二の腕、筋張った手足。先ほどの二人の腕などやすやすとへし折れそうな体つきだ。凛々しい眉と涼し気な目元の間に、ワセリンと混じった深紅の血が滲んでいる。
男からは汗の濃厚な香りが漂い、透子の心をかき乱した。
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