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名馬の城
第1章 序章
梓弓城は梓弓山のほぼ山頂にある山城で、三河国と信濃国を結ぶ街道沿いに位置する。
眼下には梓弓の街を一望でき、城下に流れる2つの川が物流を支えている。
山の四方には尾根が張り出しており、城は切り立った崖の上に建てられていた。


難攻不落の山城、と言いたいところだが、城は過去に侵攻、攻略されている。
今川氏と松平氏の大軍の前には、一地方の土豪では太刀打ちできず、最終的には松平氏に従うことで城は失わずに済んでいた。

信康の初陣から2年前のこと。
信康の父、家康と敵対した武田信玄の三河侵攻によって、梓弓城も標的となってしまったのだ。

城内は籠城戦に備え、あわただしくなっていた。
”難攻不落”の宿命で、物資を運ぶには急な山道を登らなくてはならない。
行きかう人馬に兵糧や武器などでごった返す。

物資の運搬を指揮する槻弓陸郎(つきゆみろくろう)は、その光景を見ながらため息をついた。
籠城といってもいつまで持つのだろう。

この城が過去に落とされているのは、圧倒的な兵力不足にある。いかに難攻不落と言えども何千という兵に攻め込まれてしまっては、ひとたまりもなかった。

しかも今回の相手は最強と名高い武田軍である。

自軍の兵たちも所詮は戦に不慣れな農民たちの寄せ集めであり、多少の策を弄したところで戦う前からあまりにも勝ち目がない。

何度か徳川方に援軍を要請することを城主にひそかに提案してみたものの、城主は「末代までの恥になる」と全く聞く耳を持とうとしなかった。

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