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名馬の城
第1章 序章
槻弓陸郎は、色白で切れ長の目をした一見、女と見まごうほどの美青年である。
先祖代々、梓弓の地にて城を守り、槻弓も城主から厚い信頼を置かれていた。

粗野で武骨者が多いと言われた三河武士の中でも、所作は流麗、和歌に心得があり、笛や舞の名手であった。

しかし、周囲は彼が成長するにつれ気味悪がるようになっていた。

槻弓は人の心を読むことに長けていたのである。
どんなに隠し事をしていても、槻弓は言い当ててしまう。




だが、それは槻弓に心を読む術があったわけではない。


彼には秘密があった。
人以外の生き物に姿を変えることができた。


それができるようになったのは、精通の起きた時期と重なる。

最初、鼠に姿を変えて城内を行き来すると、普段は見ることのできないいろいろなものを見ることができた。

誰ぞが誰ぞの陰口を言う姿、普段偉そうにしている者がつまみ食いをする姿、変わった方法で自慰行為に耽る姿、へそくりを隠している姿等。

知ろうと思ってみてしまったわけではないが、このことは自分の立場を一気に有利にさせた。

もともと体も華奢で非力であった槻弓は、ことあるごとに「まるで女子のようじゃ」と周囲からからかわれたり、軽んじられることが多かった。

体を変化させられるようになってから、見てしまった秘密のことを話すと、相手はぎょっとした顔をして黙り、それからからかわれることは二度となかった。

次第に鼠に加えて蛙、鳥などに姿を変え、城内を行き来する。
いつのまにか自分自身を守るために、城内の者を監視するのが日課になってしまった。
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