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『帰り花の夜に』~義母の静謐なる背徳
第7章 義息~超えてはいけない境界線(6)
きしむような暑さが、アスファルトの匂いとともに部屋の隅々にまで澱んでいた。空気は重く、湿り気を帯びて、まるで誰かが長いあいだ窓を閉め切ったまま放置した部屋のように、動かなかった。
西日がカーテンの隙間から細く差し込み、フローリングの上に細い光の帯を落としていた。その光の中に、埃がゆっくりと浮遊しているのが見えた。私はキッチンの冷たい流し台の前に立ち尽くしていた。ステンレスの表面は、触れるとひやりとして、指先の皮膚をわずかに収縮させた。
「いってきま~す! ママ、夕飯はお友だちの家でご馳走になるかも。帰りは亮介に迎えに来てもらうからね!」
葉月が甲高い声を弾ませて玄関を出ていく。あの子の声は、いつものように明るく、少しだけ高すぎる。バタンとドアが閉まった途端、家の中が不自然なほどしんと静まり返った。冷蔵庫の低い唸りだけが、遠くで聞こえていた。まるで、その静けさ自体が、私と彼を試すために用意された罠であるかのように。
——ああ、行っちゃった。
私は流し台の縁に両手を置き、視線を落とす。水道の蛇口から、一滴、また一滴と水が落ちる音がした。規則正しく、機械的で、容赦がない。いけない、私には夫がいる。あの子は、私が大切なお腹を痛めて産んだ娘だ。血のつながりは、否定しようのない事実として、私の体内に残っている。それなのに、胸の奥がトクトクと脈打って、ちっとも落ち着かない。心臓の鼓動が、肋骨の内側を叩いているのが自分でも分かった。
私はなんて浅ましい母親なんだろう。五十近くになって、こんな感情を抱くなんて。だが、感情というものは、年齢や道徳では制御できないものらしい。少なくとも、私の場合はそうだった。
夕暮れ時、西日がギラギラと流し台のステンレスを照らす頃、スマートフォンがジリジリと震えた。画面に「亮介くん」の文字が浮かぶ。短いメッセージだった。
「今から帰ります」
その四文字だけで、身体の奥がツンと熱くなった。子宮のあたりが、ゆっくりと収縮するような感覚。私はメッセージを読み返し、画面を消した。指先がわずかに震えていた。
西日がカーテンの隙間から細く差し込み、フローリングの上に細い光の帯を落としていた。その光の中に、埃がゆっくりと浮遊しているのが見えた。私はキッチンの冷たい流し台の前に立ち尽くしていた。ステンレスの表面は、触れるとひやりとして、指先の皮膚をわずかに収縮させた。
「いってきま~す! ママ、夕飯はお友だちの家でご馳走になるかも。帰りは亮介に迎えに来てもらうからね!」
葉月が甲高い声を弾ませて玄関を出ていく。あの子の声は、いつものように明るく、少しだけ高すぎる。バタンとドアが閉まった途端、家の中が不自然なほどしんと静まり返った。冷蔵庫の低い唸りだけが、遠くで聞こえていた。まるで、その静けさ自体が、私と彼を試すために用意された罠であるかのように。
——ああ、行っちゃった。
私は流し台の縁に両手を置き、視線を落とす。水道の蛇口から、一滴、また一滴と水が落ちる音がした。規則正しく、機械的で、容赦がない。いけない、私には夫がいる。あの子は、私が大切なお腹を痛めて産んだ娘だ。血のつながりは、否定しようのない事実として、私の体内に残っている。それなのに、胸の奥がトクトクと脈打って、ちっとも落ち着かない。心臓の鼓動が、肋骨の内側を叩いているのが自分でも分かった。
私はなんて浅ましい母親なんだろう。五十近くになって、こんな感情を抱くなんて。だが、感情というものは、年齢や道徳では制御できないものらしい。少なくとも、私の場合はそうだった。
夕暮れ時、西日がギラギラと流し台のステンレスを照らす頃、スマートフォンがジリジリと震えた。画面に「亮介くん」の文字が浮かぶ。短いメッセージだった。
「今から帰ります」
その四文字だけで、身体の奥がツンと熱くなった。子宮のあたりが、ゆっくりと収縮するような感覚。私はメッセージを読み返し、画面を消した。指先がわずかに震えていた。

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