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ほしいままに
第27章 迷い
「お嬢様…ご無事ですか」
囁き声で春江さんが言った。
「今、西の方にいらっしゃるのか、東の方なのかだけでいいので、私に教えていただけませんか。旦那様には反対の方角をお伝えします」
私が西の方だと伝えると、春江さんは「寒いから気を付けて」とだけ言い残して電話を切った。
私の意識は、住んでいた場所へと引き戻され、薄暗い書斎で考え込むお父さんの姿が浮かび、息が苦しくなった。
「森川君、大丈夫か」
欄干に腕を預けた私の隣に、支店長が立った。
私は川面に目を落としたまま、思いつくままを言葉にした。
「病院でお父さんが、さとみ、って呼んだの、聞こえました?」
「ああ…立ち聞きで、聞いてしまった。すまない」
支店長は律義に謝ったけど、私は首を振った。

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