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第6章 過去と経験

雅也さんはひとつ息を吐くと持っていたカップを傾けた。
私も同じようにコーヒーを飲む。

「……美味しい」

「だろ？昔から俺の淹れるコーヒーは上手いって香菜さんが……」

急に言いかけて雅也さんがやめた。
不思議に思って隣を見ると深いため息をついている。

「……こだわってるわけじゃないんだ。ただあまりにも香菜さん以外の思い出が少なすぎるのか、時折こうやってたまに出てくる…」

確かに元カノ…と呼んでいいかは微妙だけど。
香菜さんの名前がことあるごとにでてきたらいい気分はしないだろう。
比べられていると感じてもおかしくはない。
現に私だって何だか胸がもやもやする。

「……じゃあ私との思い出をいっぱい作ればいいんじゃないですか？」

私の提案に雅也さんは困ったような笑顔を見せた。

「あんまり頑張るな。無理をすると壊れるぞ」

もしかしたら今までの彼女にもそう言われたんだろうか。
そしてみんな頑張って…離れていった……
誰が悪いわけでもないから恨むことすらできない。