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人妻コレクション~他人に抱かれる妻たち
第10章 菜々姫~囚われた戦国の美妻
「待つのじゃ!」

立ったまま、菜々は闇の奥に何かが光るのを見た。

刀を握りしめた甚八の姿が、大木の向こうに浮かんだ。

「甚八・・・・」

菜々は絶望的な視線でしもべを見つめ、そして、首を振った。

「構うでない! 行くのじゃ! はよう!」

菜々の傍らに立つ男が、体を震わせて笑った。

「奥方様の言う通り逃げるがいい。われらは追うような真似はせぬ」

甚八は、しかし、菜々の指示に背いた。

刀を草の上にそっと置き、甚八は菜々を見つめた。

「甚八・・・・」

「ほう、降伏を選ぶか」

闇の中に静かに立つ甚八に、男は言った。

「そのおなごを解放するのじゃ」

甚八は、低い声で男に要求した。

「おなごじゃと? これは紛れもない藤川の奥方であろう」

男の言葉に、甚八は静かに笑った。

甚八が笑った姿を、菜々は初めて見た。

「人違いじゃて」

「人違い?」

「そうとも。そのおなごのどこが奥方様じゃ」

「違うと申すか、おぬし」

男は、短刀の先で菜々の胸元をいじりながら言葉を続けた。

「数日前、われらの同士が城付近の山中で殺められてな」

「・・・・」

「その様子を密かに見ていたものがおる」

「・・・・」

「殿の奥方様が山賊どもに危うく犯されかけ、そこを何者かが救い出したという」

「・・・・」

「城に火を放ち、自害したと見せかけ、勝重と正室、菜々姫が密かに逃走を図ったという噂もある」

「・・・・」

「怪しげな男と女を我らは草の根掻き分け探し続けたのじゃ」

沈黙を貫いていた甚八が、再び口を開いた。

「全て身に覚えのないことよ」

「こやつ・・・」

「我らは百姓じゃ」

「何・・・・」

「このおなごがお城の奥方様であろうはずがない」

甚八が再び低い声で笑った。

しばらくの沈黙の後、男が甚八を鋭く見つめた。

「では、このおなごは奥方ではなく、お主は奥方を守る用心棒でもない」

「さよう」

「ならば、きさまらはどのような間柄じゃ」

甚八は、その言葉を予想していなかったようだった。

闇の中、彼は言葉を発することができない。

「きさまらはいったい何者なんじゃ」

「・・・・」

「答えることができぬじゃろう。どうじゃ!」

男が追い込むように叫んだ時だった。

「めおとでございまする」

菜々の静かな、しかし鋭い言葉が闇を貫いた。
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