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毒舌
第35章 呪縛


そしてまた私の新しい日常は何事もなく過ぎていった。普通に会社にいって普通に帰ってきて、部屋に戻ればトビは姿を現して夜は二人で過ごした。私の作った料理も食べてみてくれたし悪くないってお世辞なんかも言ってくれて。大きな変化といえばトビが自由に実体化してのんびりいられること。前みたいに力を使いすぎて消えちゃう心配がないこと。器の力で格が上がって、妖怪と神様の間みたいな存在になっちゃったんだって、……よくはわからないけど。

それでも、こうして私といてくれる。トビは嘘を言わないし、約束は守ってくれる。もう二人を縛るものなんてないはずなのに。


「琴美は何だか大人になったねえ」


新入社員の頃はまだまだお子様みたいな顔付きだったんだろうな、最近は落ち着いてきたせいかよく変わったって言われる。そうなのかな。


「今年の社員旅行は雪山だって。スキーとかしたことある?」


社員旅行の間はトビには私の中でおとなしくしてもらわないといけないかも。香島さん以外のひとにトビを見られたらきっと大変。私はパソコンのキーボードを叩く指を止めた。


(二泊三日か……長いな)

『別に大したことねぇよ。お前の中におさまってるのも俺は嫌いじゃねえし』


最近は毎日トビに会えているから、ちょっとの我慢も出来ないくらい我が侭になっちゃったかな。欲張りだな。


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