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第8章 第一部・第二話【赤とんぼ～小紅と碧天～】　すれ違い

　舞台に上がれば、辛い現実も忘れられ、ひとときの美しい夢を見られる。そして、その〝夢〟が芝居を見る人々にもまた新たな幸せな夢を与えることができる。いつしか栄佐はひそかに芝居役者になりたいと願うようになつていた。乳母にせがんで母には内緒で、その後も何度か芝居を見にいき、憧れは更に強くなり渇望へと変わった。
　最後に覚悟を決めて屋敷を飛び出した時、彼の出奔に気づいたのは用人の佐竹源五郎ただ一人だった。