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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第8章 第一部・第二話【赤とんぼ~小紅と碧天~】 すれ違い
 束の間思い出した優しい乳母との雪の記憶は、しまいには爺を振り切って屋敷を出たときの哀しい想い出に変わった。栄佐は暗澹とした気持ちで重い息を吐き出し、もう一度三重ノ塔を見上げた。
 相も変わらず艶やかな色合いが秋の陽差しに眩しく照り映えている。今の卑怯な自分にはその気高き美しい姿を見ることもできないような気がして、彼は塔から眼を背けて帰り道を急いだ。
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