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第8章 第一部・第二話【赤とんぼ～小紅と碧天～】　すれ違い

　本堂の前を通り、長くて急勾配の石段を駆け足で降りる。すべてを降りきった時、ふと聞き憶えのある声がどこかから聞こえたような気がして、栄佐は周囲を見回した。
「それは本当？」
「本当です」
「では、小紅さんが絵馬堂で願い事をしていたというのは、その男のためなんだね」
　栄佐の切れ長の双眸が見開かれた。それが瞬く間にまるで視界に入る二人を射るように鋭い光を帯びる。