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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第9章 第一部・第二話【赤とんぼ~小紅と碧天~】 嫉妬
長屋に帰るなり、一挙に酔いが回り、栄佐は敷きっ放しの夜具に倒れ込んだのだった。
小紅がやって来たのはそんなときだった。流石に一刻も経てば少しは酔いはおさまってきたものの、頭が冴えてくればくるほど、昼間見た光景がぐるぐると眼裏を駆け巡った。
―何でぇ、何でぇ、あんなにやけた男に嬉しげに笑いかけやがって。
大店の若旦那風の男に微笑みかけていた小紅の生き生きとした表情が彼を苛んだ。