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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第3章   

「……おにい、ちゃん……?」

 長過ぎる脚を、妹に向かって運ばせる匠海と、

 その兄の顔を直視しては駄目だと解っていながらも、何故か瞳を反らせないヴィヴィ。

 妹の目の前で歩を止めたその人は、バスローブから伸びた手を拾い上げ。

 恭しく、白い手首に残る拘束痕に唇を寄せた。

 血管の集まるそこに直に感じた、しっとりとした暖かなもの。

「や……っ」

 思わず手を引こうとしたが、大きな掌ですっぽりと手首を握られてしまい。

「どうしてだい?」

 切れ長の瞳が、さも不思議そうに20㎝の身長差から見下ろしてくる。

 けれど、兄から視線を落としたヴィヴィは、瞳を彷徨わせ、

「…………汚い、から」

 そうぽつりと零した。

 今の自分は、兄のかつて知ったる自分では無い。

 他の男を望まぬ形で憶え込まされ、

 己の内を土足で踏み荒らされ、

 そうして、身も心も穢された。

「お前は汚くなんてない」

 そんな上辺だけの言葉を寄越す兄にか、自分にか。

 失望の色を滲ませたヴィヴィは、掴まれている手を振り解こうとしたが。
 
 逆に力を込めて引き寄せられ。

 そして、あろうことか。
 
 妹が驚いて見上げた目と鼻の先で、兄は赤く色付いた手首に舌を這わせ始めた。

「……い、いやっ」

 唇とは異なる濡れた感触に、全身の毛が逆立つ。

 バスローブに隠された胸が、恐怖を覚えるぐらい大げさに鼓動し始め。

 咄嗟にタオル地の合わせ目を、もう片方の手で握った瞬間、

「嫌? そんな事を言う子は、こうしてやる」

「……え……? な……――っ!?」

 ふいに、自分の腰回りが軽くなり。

 次いで、自由な方の手首を掴まれた感触に、視線を落とせば、

 バスローブの紐でぐるぐる巻きにされている、己の両手首があった。

 あまりの素早い手際に、ヴィヴィは一瞬、何をされたのか理解出来なかった。

 しかし、数秒後――。
 
 大きな瞳は明らかな怯えを滲ませていた。

 目に入る、自分を拘束する物は、

 オフホワイトで、なおかつタオル地という、柔らかく太い素材だったのに。

 ヴィヴィの瞳に映り込んだ、その情景は、

 黒いネクタイにきつく縛り上げられた、

 昨晩の悪夢そのもので。

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