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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第3章   

 自分は一度、兄を裏切った。

 けれど、

 兄も一度、自分を裏切ったのだ。
 
 喧嘩両成敗――?

 とにかく、もう自分は絶対に兄の言いなりになんてならない。

 その決意を込めて匠海を睨めば、目の前に腰掛けたその人が問うてくる。

「 “ヴィクトリア” は死んだ?」

「死んだわ」

 迷い無くきっぱりと口にしたヴィヴィ。

 けれど、

「そうか。じゃあ、息を吹き返させてやるまでだ――」

 まさかの返事を寄越した匠海に、両の肩を掴まれたと思った瞬間、視界が反転し、

「……え……? や、やだっ!?」

 ふかふかなそこに押し倒されたと気付いたヴィヴィに迫るのは、自分だけを見下ろしてくる実の兄。

 拘束された両腕を、逞しい胸板へとめい一杯突っぱれば、

 バスローブが微かに肌蹴た細い腰を、長い脚が跨いで来て。

「……っ!? や、やめて……っ」

 腰に体重を掛けられたら、完璧に逃げ場を失う。

 それを身を以て学んだばかりのヴィヴィは、恐怖に顔を引き攣らせながら逃げを打とうとする。

「大丈夫。怖い事なんて無い」

 何の慰めにもならない戯言に、

「怖いっ おねがぃ……、も……、やめて……っ やめて下さいっ」

 そう細い声で懇願するヴィヴィ。

 自分を見下ろす兄の姿にチラつく、もう1人の男の黒い影。

 それを認めた途端、細い咽喉の奥から零れたのは、音も発せぬ悲鳴。

「―――っっ」

 怖い。

 恐い……っ

 また、昨夜と同じ恐怖を味あわされるのか――?

(何故……? 何の為に……?)

 灰色の瞳が徐々に細まり、

 今まさに、自分を再度、生死の狭間へと突き落とさんとする男を見上げていた。

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