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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第13章      

 クッション部分に三角座りし、調達した缶ビールのプルトップに指をかけ、

 プシッと軽妙な音に引き寄せられる様に、キンキンに冷えたそれに口付ける。

 恥じらい無くゴクゴクと咽喉を鳴らせれば、炭酸の刺激が食道粘膜を焼き。

 たった5秒で飲み干した薄い唇からは「けふ……」と炭酸が抜けるあられもない音が漏れた。

 夜の帳が降りた外は、当たり前だが肌寒く。

 しかし外と中から冷やされてやっと、ヘドロが沈殿した酸素の薄いドブ川から、ある程度は澄んだ河川へと流れ込んだかの如く、

 脳も身体も覚醒した感はあった。

 折り畳んだ両脚を片腕で抱え込み、もう片方の手で空になった缶を手持無沙汰に持っていると。

「こら、流石に半袖は寒いだろ。まだ4月なんだぞ?」

 前触れ無く掛けられた咎める声と、肩から下をふわりと包み込む暖かなブランケットの感触。

 ちらりと背後を流し見れば、にゅっと伸びた長い腕が手にしていた空き缶を奪い取ってしまう。

「あと少しで夕飯出来るから、待ってて」

 妹からの返事を待たず、すぐに室内へと戻っていく足音。

「………………」


 “アレ” を聞かれたのだろうか?

 背後から己の “オヤジ顔負けの呑みっぷり” を、あの兄に見られたのだろうか?


 肩からずり落ちそうなブランケットを両手で掴み、冷え冷えする冷気から己を守る。

 一瞬だけ羞恥を浮かべていた瞳は、しかしすぐに静かなものに変わった。


 今更、昔の男を前に何を取り繕おうというのか。

 百年の恋も醒める行い――?

 そうなれば、自分にとっては万々歳じゃないか。


 ボスッとブランケットの膝に額を埋め、そのまま放心していると。

 数分後、背後から夕食の準備が整った旨が告げられた。



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