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不条理な世界に、今日も私はため息をつく
第1章 破談になりました
 
 男だ。

 どう見ても、男だ。

 しかもどこかなよなよしている雰囲気のくせに、半袖から延びる両腕は、ボディービルダー真っ青のムキムキマッチョだ。


 もしかしてあれか。

 先週、同僚に連れられたという新宿二丁目で知り合ったのか?


 そんな趣味あったか、聡。

 お前以前、同性愛者に吐き気がするとか言って無かったか?

 腐女子を見ると、凍えるような目で見ていなかったか?


 あたしの心の声は段々と、取り繕わない素のあたしのものとなる。



 男、男、男……よりによって男!

 あたしは男に負けたというの!?


 すごい屈辱なんですけどっ!



「……ひとつ聞くけど、あたしが嫌いになった?」


 驚愕の表情を顔に出さずに聞いてみれば、奴は平然とこうのたまった。

 愛しのハニーの前だからか、不遜な態度で椅子に腰掛け直して。



「嫌いじゃないよ? 単純に……体の相性? お前不感症で抱いてもつまんないのが、結構気にかかっていたんだよね。俺としてはアンアン啼いて欲しいわけ」


 ……この人、こんな男だったの?

 ねえ、いつもそんなことを思っていた下卑た男だったの!?

 なにこの上から目線。


 聡に対して熱烈な愛情はなかったけれど、穏やかな愛情が消し飛び、心がすっと冷え込んだ。

 拒絶反応に、鳥肌。


 ああ、だめだあたし。こういう自意識過剰男と一緒にいるのは。



「その点こいつ、凄く敏感で可愛く啼くし、まさに俺好みの……」


 バッチーン。



「こんな早漏の短小男、こっちからお断りよ! あたしにどうこう言う前に、へたくそなテクを磨きなさいよっ!」



 大きな張り手をかまして、指から引き抜いた指輪を聡に投げつけると、あたしは憤然と喫茶店から出た。


 途中、花束と贈り物を忘れたことに気づいたけれど、餞別代わりにハニーにくれてやるっ!


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