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あたかも普通の恋愛小説
第6章 駆け引き、誤算、泡沫の恋
怖がってちゃだめ。声を出さなきゃだめ。誰でもいいから助けて!
到着した電車から転げ落ちるように飛び出して逃げたい私の腕は掴まれたまま。乗車の列に並んでいたひとに飛び込んで必死に叫んだ。
「助けて!」
ぼろぼろと泣き出した私に驚く人々。やっと男は私の手を離して雑踏に紛れて逃げる。電車が発車してホームは少し閑散とした。
親切なお姉さんがどうしたの?と声をかけてくれて、私がしばらく泣いていたら後ろから聞いたことのある声がした。
「ごめん、逃げられた」
振り返るとそこには井藤くんと真壁さんの二人が息を切らして立っていた。
「大丈夫?」
「えっ、なんで二人がここにっ」
びっくりしてる私に、親切なお姉さんは「知り合いがいたなら失礼するわね」と去っていき、すっかり涙はひいてしまった。
「なんか……いつ見ても男に絡まれてるね」
真壁さんの第一声が心に突き刺さる。
「可愛いから仕方ない」と井藤くんが軽く流したけど、地味に落ち込む。こんなとこ見られたくなかった。こんなことあってほしくなかった。