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隠匿の令嬢
第21章 その世界、色鮮やかに




 アリエッタは迷ったが、真実を口にする。


「……ある方の幸せを願ってました」


「ある方?」


「はい。とても恩のある方です。私はその方のお陰で寒さに震えることも、空腹で眠れぬ夜も過ごさずに済みました」


 罪を背負い込み、閉じ籠ってしまっていた殻をも破ってくれた。


 新たな罪の意識を生みはしたが、もう閉じ籠ることはない。向き合う大切さを教えてくれた。


「アリエッタはここに来るまで、その方の傍にいたのね」


「……はい」


「どうしてその方の傍を離れたか訊いてもいいかしら」


 マザーのおっとりとした声が波立ちそうになる感情を宥める。


「それは……恐かったからです」


「酷いことをされたの?」


「いえ……。与えられてばかりいた私があの方の幸せを奪ってしまうことが恐かったんです」


 己のエゴを優先させてしまいそうで。


 ひとりの男にふたりの女。保つバランスはそう長くは続くまい。リンゼイの涙から、すでに崩れかけてはいただろう。


 レオやリンゼイがボロボロに崩れている姿は見たくはなかった。





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