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第14章 【夢から醒めるとき】
孝介の瞳が糸のように細くなった。
おかしくて仕方がないというように、肩を揺する。

「あーぁ。本当に、うんざりだ…どうしてみーちゃんだったんだろう。
それなりに“お気に入り”の相手が出来ても、無意識にお前と比べちゃう。
相手がどんなにイイ女でも、お前じゃないって思い知った瞬間、なにもかもが嫌になる。
‥爽ちゃんはずっとみーちゃんを探してた…探し疲れて、選んだのがカレンだったんだと思う。
だけどね‥爽ちゃんは爽ちゃんなりにカレンのコト、大事にしようと思ったんだと思うよ。みちるへの想いとは違ったのかも知れないけど、気持ちはあったんだと思う。
だから籍を入れたんだろうし、僕から引き離したんでしょ。
ユウのことだって、カレンに愛情を感じたからもうけたんでしょ」

爽介は、私以外の女性には避妊具を使用していた。
“俺とみちるのこどもを産んで”
無邪気に甘えていた爽介。
ベッドの中で、爽介とふたりで新生活を夢見ていたことを思い出す。

「爽ちゃんの離婚には、みーちゃんは関係がない。
きっと、“存在の不在”が埋められなかったんだよ。
ユウがいないことを、受け入れられない。
関係の再構築が出来ない―
だから、爽ちゃんはカレンと暮らしていた部屋を出た。
ずっとみーちゃんが好きだったのも真実。
カレンのコトを大事にしようとしたのもまた、真実。
どちらもお兄ちゃんの真実だよ。
お兄ちゃんのタトゥー、見たでしょ?カレンはね、“花蓮”って書くんだ。籍を入れた時に彫ったんだって。馬鹿でしょ?
消せないから、彫ったんだろうね。一生、護ろうと思ったから」

ベッドに、漢字を書きながら孝介が深い息を吐いた。

「カレンが部屋を出て行かないのは、ユウの気配がまだ息づいているから。夫婦間の愛情うんぬんじゃないと思うよ。
爽ちゃん言ってた。
“ユウが死んだ瞬間に、俺もカレンも何かが死んだ”って。
夫婦には夫婦にしかわからないものがある…真央はそのことを理解出来なかったみたいだけど。
僕だって完璧には理解出来ていないだろうけど‥」
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