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第14章 【夢から醒めるとき】
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床に落としたシーツを拾い上げ、孝介が私の身体に掛けた。
狂気を孕んだ眼差しのまま、孝介は必死に自分の感情を諫めようとしていた。

「―怖い?ごめんね‥暫くすれば、落ち着くから。
頭に血が昇るとこんな風になっちゃうんだよね‥妙なトコロが兄貴に似ちゃって」

孝介は笑おうとしたが、うまくいかなかった。
表情は強ばり、頬の筋肉が痙攣した。

「無理して話さなくてイイよ。
何もみーちゃんの心の内を暴きたいわけじゃない…」

私の身体に触れようとする孝介の指先が、宙を泳いだ。
長い躊躇いの後に腕を伸ばし、“おいで”と眼差しで私を呼ぶ。
孝介の腕枕に身を寄せ、体温を確かめた。
爽介の身体よりももっと、孝介の身体はポカポカしていた。
温もりにホッとした。

『ううん‥孝ちゃんに聞いて欲しい。
今まで逃げてばっかりだったから‥もう、止めようと思って‥私、爽介が暮らしている街にいたの。
高校を卒業してすぐに引越したんだ。アパレルのShop店員をしてた。そこで、恋人と暮らしてた―』

リョウヘイ‥涼平と出逢ったのは、お互いに21歳の時だった。
どうやって出逢ったのか、どのような経緯で身体の関係を結んだのか今となっては思い出せない。
そもそも、恋人であったかどうかも疑わしい。
その頃の私は、涼平をはじめとした男と複数の関係を結んでいた。
【爛れた日常】の真っ只中にいた。

私のことを“好き”だと言う男はたまにいた。
割り切った関係を受け入れる私のいい加減な性格が“好き”だったのか、私の身体が“好き”だったのか、知る由もない。
好かれていても、嫌われていてもどちらでも良かった。
どちらでも大して意味を為さなかった。

故郷や実家や爽介や絵のこと―
心を掻き乱す事柄を忘れさせてくれる相手、私の手を煩わせない相手ならば誰でも良かった。
誰ひとり、信用してなどいなかった。
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