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第14章 【夢から醒めるとき】
涼平の前でだけ、私は絵を描いた。
漫画を読むふりをしながら、涼平はちらちらと盗み見をする。
笑いを噛み殺しながら、描いた。
涼平の笑顔を写し取った。
涼平の無垢な笑顔が好きだった―

涼平はたまにパチンコに出掛けた。
何故かツキだけはあって、大量のお菓子を持ち帰ってきた。
“お菓子じゃなくて換金しなよ。”
とたしなめても、
“うん。ごめん。でも、限定品だったから。ミチに食べさせたくて。”と、笑う。
そして次にパチンコに行く時には、私の言葉をすっかり忘れてしまう。

涼平と暮らしながらも、TVに爽介が映ると、私の心はすぐさまさらわれた。
新聞に載った小さな爽介の記事を切り取った。大切に保管していた。
それを涼平に発見された時には、憤慨した。くしゃくしゃに丸めて捨てたはずなのに、涼平はシワを伸ばして、わざわざスクラップブックに綴じて部屋の隅に置いていた。

涼平はいつも恐々と私を抱いた。
背も高くない、もやしのような優男が多少ハメを外してもどうにかなるわけではないのに、涼平の考えからすると、女性の身体は神聖かつ繊細なものだった。

1週間に1度、生真面目な顔で正座をして“したいんだけど”と、私にお願いをする。
“来れば?”と言うと、神妙な面持ちでベッドに入ってくる。
まるでセックスが罪悪のように―
自分の欲望が私を貶めるとでも言うように、涼平は頭を垂れていた。
ありきたりな前戯の後の短い挿入。
【静かな雨】のように、涼平は私を抱いた。

抱き方も優しければ、終わった後はことさら優しかった。
“痛くない?大丈夫?”と、鬱陶しいほど私の身体を労り、そっと抱き締めて眠った。
このつまらない男の中に、稀に安らぎをみた。
つまらないセックスの中に、“愛してる”と囁かれると、自分の唇からも何かがこぼれ落ちそうになった。

涼平に気持ちを尋ねられた記憶はない。
“好き”だと返したことはあっても、それ以上の言葉は口にしなかった。

涼平は私に何も求めなかった。
涼平は私から何も奪わなかった。
ただ、私のそばにいた。
ただ、そばにいてくれた。
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