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第14章 【夢から醒めるとき】
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『目覚めた時には病室にいた。
《彼》の姿は見えなくて‥《彼》の祖父母が私に泣いて詫びた…』

私の首を締めた後に、涼平も首を括ったという。
途中で紐が切れてふたり共、死にきれないまま意識を失っていた、と。

心中未遂を起こす数日前に、涼平は祖父母に“仕送りが遅れる”との旨の電話を入れていた。
祖父母は元々、涼平の仕送りに手をつけていなかった。
ただ、涼平の口調に胸が騒いだという。
不審を抱いた祖父母は私たちの部屋を訪れた。
鍵は開いており、部屋の中では私たちが折り重なって倒れていた。

“男たち”の影にあんなに怯えていた涼平が、どうして施錠を外していたのだろう。
ひょっとして、止めてくれる誰かを求めたのだろうか。
自分のこともままならないのに、祖父母の生活を気に掛けていたのがいかにも涼平らしい。
涼平は優し過ぎた―

別室に寝かされていた涼平は私よりも先に目を覚まし、暴れて安定剤を投与されていた。
耳をすませば、私を求めてすすり泣く涼平の声が聴こえる気がした。

私に謝り続ける涼平の祖父母に、申し訳が立たなかった。

『涼平さんのいないところへ…行きます』

そう呟くことが精一杯だった。
涼平の祖母は余計に、むせび泣いた。

このままでは本当に駄目になってしまう、私たちは同じことを繰り返す、もういっしょにはいられないと思った。
病院に止められながらも無理矢理退院し、必要最低限のものだけを詰めて部屋を出た。
置き手紙1つ、残さなかった。
夜行バスの時間帯まで身を潜め、帰郷した。
それきり、あの部屋には帰っていない。
部屋の名義は私名前だったが、葵の祖父に紹介された人物に代理人になってもらい、契約を解除した。

『―《彼》に何も告げずに逃げたの。
病室で眠る《彼》の顔を見に行くこともしなかった。何もかもが怖くなって、嫌になって…逃げた。
《彼》が一番、私の助けを必要としている時に…私は逃げた』

涼平が壊れてしまったことが恐ろしかった。
ふたりの暮らしが壊れてしまったことが悲しかった。
もう昔のようにはいかないのだと思うと、苦しかった。
涼平を大切に思っていることに気付いた時、愕然とした。
大切な存在を、この手で傷付けたことに絶望した。
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