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第14章 【夢から醒めるとき】
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「―こんなに、お前に会いたくなかった日はねぇ」

弱い瞳のまま、爽介が微笑む。
仕事を始める前だからか、爽介は髪を切って栗色に染め直していた。
今までで一番、昔の爽介の雰囲気に近かった。
再会した時と同じ、黒いポロシャツにゆるゆるのジーンズを穿いていた。
スニーカーだけは、違うメーカーのものを履いていた。
学生時代に爽介が愛用していたメーカーだったので、懐かしかった。
爽介の姿は15年前の面影を充分留めているのに、何故か今日は歳相応の大人の男に見えた。

今日という日のために、私は何の飾り気もないAラインの黒いワンピースを選んだ。
私が持っている服の中で一番地味で、しみったれた洋服。
履き慣れたミュール。
バッグはいつものくたっくたの黒い合革。
装飾品は何も身につけなかった。
自分らしい姿で、爽介に会いたかった。

「お前‥葬式みてぇだ」

爽介が肩を揺する。
6月に爽介と汗を流した公園を歩いた。
手は繋がなかった。
木々は次の季節へと衣替えの準備中。
そうやって、めまぐるしく季節は移ろうのだろう―
ひとけのないウォーキングコースを散策する。

「…どうやら、俺は独り寝の寂しさに堪えないといけないようだな」

爽介が、のんびりとした口調で口火を切る。
孝介から話を聞いたのだろうか?
いいや、爽介は勘の良いトコロがあるから薄々気付いていたのかも知れない。
孝介は私の独白を、他言することはないだろう。

『爽介には‥ついて行けない』

「職場に話をしたんじゃねぇのか?
食っていけんのか?
部屋はどうすんだ?」

『どうだろう‥また店長に話をしてみようかな?どうにでもなるよ。新しく仕事を探しても良い。
部屋は引っ越すよ』

「お前の意思を無視してでも、連れて帰るって言ったらどうする?」

『爽介は…そんなことしないよ。優しいから。そんなところが、大好きだったの…』

爽介に微笑みかける。
少しでも優しく笑えればいいな、と願う。
爽介が息を飲んだ。
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