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第14章 【夢から醒めるとき】
「モヒカン禁止!
お客様がレジから逃げちゃうでしょ‥時給、あと¥30上げようか?」

『貰えるモンはすべて貰うっす。独り身だし、葬式代くらいは貯めとかないと。戒名代も』

“三十前守銭奴鉄女”なんてどうかな‥。
“極楽”とか入れた方がイイのかな?

「えっと‥じゃあトータルで¥80ってことにしとくね。
ねぇ、住むところはどうするの?」

『引越しするっす。
これから探すところっすけど、出来るだけ早く見つけようと考えてるっす』

「‥余計なお世話だろうけど…最近、目黒君と会った?」

『いや‥会ってないっすね……』

「……目黒君、大学を休学するみたいだよ。
アメリカに行っちゃうんだって。留学かな?
自暴自棄になってるみたいで…
“スケコマシになりたい”ってぼやいてたし。女のひとからの電話が鳴りっぱなしなんだ。
“ゆかりさん”ってひとと、電話で言い争ってたよ。
ひとの出逢いってさ、すべては“タイミング”だと俺は思うんだよ。
斎藤さん、幸せを諦めるのはまだ早い。
もう一度、自分の心を見つめ直してみなよ」

*****

葵とは会わないまま、9月に入った。
毎日、押し花が届いた。
ドアの向こうで囁かれても、決して開けなかった。

部屋探しはどうにか順調に決まった。
やっぱり六畳一間のボロアパート。
変わったところといえば、お風呂とトイレが別になっているところ。
そして、小さなベランダがついているところ。
自由にリフォームして良いとのことだったので、お風呂場のタイルは自分で張り替えよう。
もの造りならお手のものだ。
キッチンが明るいのも良い。
光の中でフライパンを握れば、きっと気分が良いはずだ。

駐車場を借りることも出来る。
小さな屋根つきの駐輪場があるので、自転車を買おうかなと思った。
職場から徒歩15分と少し遠くなってしまったからちょうどいい。
空き部屋だらけだから、裏庭のスペースが自由に使えることも良い。
家庭菜園が出来そうだ。
家賃がほとんど変わらないのも助かる。
もっとも、葵の祖父が知り合いだったため、圧力を掛けてくれたようだけれど…。

新しい場所で、新しい気持ちで生きてみよう。
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