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第14章 【夢から醒めるとき】
「じゃあどうして荷造りなんか‥どこに行くんですか?」

『近場に。やっぱり古いアパートなんだけど‥週末には引越すの。心機一転‥イイ歳して、何だか恥ずかしいけど』

忙しなく早織ちゃんの視線がさ迷った。

「―みちるさん‥葵と会ってやってくれませんか?
葵、休学するってきかないんです。
自分の内側に籠ってしまって、誰とも会話しようとしません。
みちるさんにならきっと、話してくれると思うから…」

『アメリカに行くんでしょう?』

「…ご存知だったんですか?」

早織ちゃんの瞳が大きく瞬いた。

小さなため息の後に、慎重に言葉を選んで語り掛けた。

『この前ね…ようやくきちんと葵にさよならを告げることが出来たの。付き合ってもいないのに、さよならするなんて変な話なんだけど……私たちは、ある意味ではお互いがすべてだったから。
卵の殻に閉じ籠って、ふたりだけの世界で生きてきた。
…早織ちゃんに葵を返すって言った後も、どこかで依存していたの』

「―みちるさんにとって、葵は何ですか?」

早織ちゃんの瞳が潤む。
どうしてか、彼女は私たちのために泣いてくれているような気がした。
私はそっと微笑む。

『わからない―葵のことを、大切に想う気持ちはあるの。
だけど葵に対して爽介に抱いたような感情はない…恋ではないの。
もっと違う何か…葵は、私の“半身”だと思う』

「みちるさんそれって……」

早織ちゃんが何かを言い掛けて、止めた。
嗚咽でそれ以上は言葉にならなかった。

『葵には会わないわ。私ね、頑張ってみようかと思って…ずーっとね、眠ったふりをしていたようなものだったから。
もうそろそろ目を覚まして、外の世界に目を向けようかなって。葵は、強い子だから…自分のことは自分で決める。
《これから》は、私たちはひとりでもやっていける』

―ひとりで、生きてみよう。
新しい気持ちで外の世界を見てみよう。

「みちるさん…ごめんなさい。私、嘘をつきました。葵と付き合ってなんかいないんです。
あなたにも、安田君にも嘘をつきました……」
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