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堕ち逝く空
第2章 始まりは静かに…
転がって考えていてもネガティヴに偏ってきた気がして、彩香は身体を起こす。朝食も食べていなければ、写真立てにある母親に挨拶もしていない。そのまま携帯を部屋着のポッケに直し、階下へと降りていく。結局昨日も父親とは顔を合わせていない。ーー会社の役員で重役にあるという父親が、忙しくて仕方ないのは分かる。それでもこんな気分の時は側にいて欲しいと思うのは、ただのわがままなのかもしれない。

「……あ…」

そして手紙の存在を思い出す。彩香にいる筈のない兄弟が居て。それが兄を名乗っていることを。…きちんと聞かなければならない。自分が幾らか成長し、おっとりとした空気であったなら、写真の中の母親にそっくりと生き写しだと思う。…母親が亡くなったのか、それとも何か別の理由でこの家に居ないだけで、生きているのかもしれないとはずっと思っていた。
父親は一度として母親を亡くなったとは言っていないからだ。
それも娘を思ってのことかも知れない。いずれにしても既に18歳になり、社会へと踏み出す一歩を目の前に控えている。口籠り黙る父親も話はいずれ必ずするからと、長年彩香を躱していた。

「彰義に会いたいなぁ…」

頭の中がグルグルと色々なことが渦巻いている。いっそ身体でも動かしに行きたい。けれど彰義は今日は外せない用事があると言っていたし、もう家から出ていておかしくない時間だった。
友達には今日は体調が悪いから休むと送ったものの、変なモノを食べたのかと色々なことを聞かれたが、今日は友達の誰とも会話したいと思わなかった。

「処女はあるから、まだ大丈夫か…っ」

そうじゃないと思いつつ、そうでも言ってないと何かに押しつぶされそうだった。ーー怖い、ことは怖い以上でも以下でもない。奥がまたジンっと熱を持った気がして、強く頭を振ることで意識を強く散らす。…部屋着のズボンの上から、そっと触れようとして正気に戻った。

「もー、なんでこんなことをしようとしてんのぉ…っ」

机に額を押し付けて、自己反省をしてみる。だれも見ていないのだが、写真立ての母親が微笑みながら見ているというシュールな感覚は、倒錯的にオカシイと思ってしまう。何よりもまるで先を強請っているようで、なんだか居た堪れない。落ち着かない気持ちと恐怖と快楽が交互に顔を出している気が彩香にした。






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