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堕ち逝く空
第2章 始まりは静かに…
全てが夢であれば、どれほど良かったかと……枕に押し付ける頬が若干濡れている。そして夢では無かった事実にまた打ちのめされる。スッキリとしない朝が、生まれて初めて訪れたことを泣きそうに感じていた。
寝汗を軽く流した後に映る鏡の自分は、見た目はなにひとつ変わってなどいないのに。ーー少女という皮を脱いだオンナに変わっている錯覚がした。

「嫌だった…怖かった……なのに…」

男はそれを『正常』だと言った。
つまり女は、そういう身体の仕組みをしているのだろうか。好きでもない相手に触れられて、そう思うように出来ているのか。ーー快楽があれば、相手など誰でも一緒と思うのか。

「彰義もしたいと思うのかなぁ…」

スポーツを長年していた肢体は、女性的な丸みは控えめで。昨日急激に男女の差を意識させられる羽目になった。
彰義のコトは本当に好きだ。昔からなんだかんだと一緒に居てくれたことも含めて、家族のように愛しいとさえ思うし。抱きしめられたらドキドキもしたし、キスだってしたいと思う。それでも身体と身体を繋ぐ想像は、彩香にはまだ未知の領域に近い。今彰義に求められたら、自分は身体を開くことが出来るだろうかと思う。鏡に額を寄せて嘆息する。ーー答えは、自分で出せるものではない。とりあえず自分が今出来るのは、昨日のことは悪夢であったと終わらせることだ。

「お父さんに連絡しなきゃ…」

でもなんて言えばいいのだろう? そう考えてまた億劫になる。時間はコチコチと音を立てて過ぎていく。部屋着を新しく出して着替える。二階へ上がり、自室の扉を開くと、昨日投げ捨てるように置いた鞄から携帯を取り出した。

「……あ、連絡入れるの忘れていたなぁ…」

開いた画面に、昨日は気分が悪かったこと。最寄駅が近い友達と遊んでいて遅くなったこと。眠たさに負けて眠ってしまったことを彰義に伝える。そのまま画面を閉じて、コロリと転がって目を閉じた。

「私……電車恐怖症になったらどうしよう…」

友達と出掛けるのも、彰義と出掛けるのも電車を主に使う。バイクや車の免許は、彩香の性格上を考慮した父親が「ダメ」の一言で終わらせて取らせては貰えなかったのだ。もっとも彩香は自転車でさえも、若干スピード狂が入っているとは彰義の言葉である。流石に彰義も車の免許は取るつもりだと言っていたから、そのうち移動手段は車になるだろうけれど。…
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