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堕ち逝く空
第3章 調教と書いて「愛」という
何時もは降りない駅なので勝手は分からないが、キョロキョロと探すと近辺地図がある。それを指先で辿りながら把握していく。曲がり角さもない真っ直ぐな道の先だった。
駐車場に、エンジンをふかしているものが一台。車の番号を確かめると一致する。ノックをすると後部座席のドアが開いた。

「…お待たせしました」
「大丈夫だ…問題ない」

運転席ではなく、彼自身も後部座席に座っている。隣に招かれるまま乗り込むと、フッと口許に笑みを浮かべ呟く。

「よく似合っている…」
「ありがとうございます…」

顔を赤くし、そう言うと車が発進する。何処に向かうかと思うが、横顔に問いかけることも出来ずに、流れ出す景色を見つめた。
胸の高鳴りが耳に痛みを与える。景色を見てる筈が、窓ガラス越しに映る彼を見てしまう。端正な横顔だと改めて思う。運転手がいる車といい、贈られた服といい、彼は何処かの御曹司なのかとも思った。
会話も特にないまま、車が辿り着いたのは大きなホテルの駐車場である。車が停まると運転席から男が一人降りてくる。目深く被った帽子で表情は分からないが、年齢が若いことと僅かに見える範囲でも彼も端正な気がした。

「どうぞ…」
「あ、ありがとうございます…」

こんな扱いは受けたことがない。香織は心臓が強く脈打つのを感じる。まるで夢の中でいるようで、とても現実とは思えない。反対側から出た彼が、そっと手を差しのばす。その手を取り、慣れないヒールで歩いていくと案内されたのは美容院であった。

「?」
「お待ちしておりました。…どうぞマドモアゼル…」
「え? え…」
「彼についていくといい」

個室にそのまま招かれる。どうしていいか分からない香織を、椅子に招くと髪と顔に化粧を施された。
爪の先まで施術されていく。爪と唇は淡いピンクで初々しくなっていく。時間にしておよそ一時間ほどで解放される。鏡に映る姿は見慣れた自分とは違い、お嬢様にしか見えない。ーー

「お待たせしました」
「……ああ、やはりお前の腕はいいな」
「ありがとうございます」

慇懃なほどの礼をする店員には名札はない。個人のサロンであろうか、店自体もとても綺麗で品がいい。キョロキョロとする香織に彼はまた手を差しのばす。

「お名前を聞いても…?」
「ああ、シュラと呼んでくれ」
「シュラさん……」


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