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目が覚めたら。
第7章 鬼畜帝王が暴走しました。
 ナツが折角企画してくれたこの懐かしい演奏なのに、帝王のサックスにやられるなんて……。

 罪悪感にしゅんとなっていた時、ハル兄はあたしの視線の矛先をナツの方にも分散させた。


 帝王様が王子様の横に並んで、ふたり仲の良い掛け合いを始めたのだ。

 サックスが荒く音を鳴らせばピアノも対抗し、その逆も然り。或いは互いに反抗したような反対の音を見せる。


 調和にしろ、不調和にしろ、嬉しそうに笑顔で演奏する美貌の兄弟。

 そこにはどこにも優劣はなく、ふたりが主役で、互いの引き立て役でもあり。



 羨ましいったらありゃしない。


 同時にこのふたりをこんな特等席で見れるお隣さんでよかったと思う。

 変態兄弟だというのが残念すぎるけれど、それを差し引いても幼なじみという特別な関係は嬉しいと思った。


 涙目を手の甲で擦っていた時、頭にゴツンと飛んで来た硬いものは、ハル兄が投げつけたらしい、かの懐かしきリコーダーだった。

 そうだ、ハル兄が小学校の前で返してくれなかった曰く付きのもの。


 なぜにこんなものが……。


 帝王は首をクイと振り、こっちに来いと呼んでいる。


「……?」


 意味がわからぬあたしがきょとんとしていると、帝王はサックスのマウスピースから口を離して叫んだ。


「お前も参加しろ」

「は……!?」


 ナツがくすくす笑って、あたしを呼んだ。


「しーちゃん、強制参加」

「リコーダーで!?」


「主賓は客を楽しませるもんだろうが。ぼけっとしてねぇで吹け」


 帝王様ルールが発動したらしい。

 過去ピアノを囓っていたから、なんとなく主旋律の音はわかるけれど、12年以上のブランクのあるリコーダー片手に途方に暮れる。

 ナツの素晴らしいピアノと帝王のサックスに、ソプラノリコーダーで参加とはこれいかに?


 だけど……。



「あははは、シズ、蛇遣いかよ、お前」

「しーちゃん、まだアドリブ続けるの!?」


 なんだかわからないけど楽しくて。

 こうして三人馬鹿やれるのがとても楽しくて。


 おじさんおばさんの拍手に乗せて、盛り上がる演奏会。

 音楽にはなっていない音で、兄弟の音楽の邪魔をしながらも、ひとつの曲に入れて貰えたことが嬉しくて、あたしは無我夢中でリコーダーをピーピー鳴らしていたのだった。

 
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