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目が覚めたら。
第7章 鬼畜帝王が暴走しました。
 




 "夜、部屋に鍵をかけずにいろ"



 さすがにあたしも、その意図するところは察した。


 あの帝王様が、夜中に部屋にやってきて、ジェンガをしようとかドミノ倒しをしようとか、コサックダンスを踊ろうとかは言わないだろう。


 ………。


 ……嫌がらせで言う可能性はないとも言い切れないし、あたしひとりでそれをやらせて、その間ふんぞり返って卑猥な漫画を読まない……とも言い切れないが、あの流れでその帰結はないだろう。


 ……多分。


 医療行為の必要性なくとも、夜伽に訪れようとする帝王の気まぐれに、あたしは心をかき乱されていた。

 なんで、ハル兄はあたしに構い出したのかと。


「――と言うこと。わかった、しーちゃん?」


 横に居るナツが突然話を振り、佐伯家全員から注視されていることに気づいたあたしは、慌てて顔を上げて何事かとあたりを見回した。


「もぅ。ちゃんと聞いててよ、しーちゃん」


 佐伯家の、片付けられた居間。

 ソファにはあたしとナツが横並び、向かい側には最早背景と同化しそうなおじさんとおばさん。その奥にいるハル兄の存在感のおかけで、なんとかかろうじて輪郭が見える状態。

 ハル兄は奥の壁に背を凭れさせて、灰皿片手に気怠げにタバコを吸っている。

 裸の上半身に白いブラウス一枚羽織っただけ、さらに物憂げな顔でのあのタバコ顔は、完全に目の毒だ。

 帝王は服を着ても着なくても、妖しいフェロモンを振りまくのがお得意のようだ。

 ああ、白衣はきっとその防波堤。ここまでのフェロモンは放ってなかったじゃないか。

 清廉なあの白衣着てくれないかな。

 ……あたしの"治療時"にも着ていたものだから、清廉とは言えないかもしれないけれど。


「しーちゃん、こっち」


 ナツが両手であたしの頬を挟んで、自分の方に向けた。

 ココア色の瞳が苛立ったように細められている。


 ナツは神妙な面持ちで言った。


「しーちゃんの特殊な体質を付け狙う輩がいるんだ。個人というより、多分集団」

「へ?」



 気づいたら――


「もっといえば、しーちゃんが眠っている間、しーちゃんのおばさんの遺品を荒していた奴らだと思う。そしてしーちゃんが目覚めたのを知ってから、また動き始めたんだ」


 なにやら物騒な展開になっていました。
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