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目が覚めたら。
第7章 鬼畜帝王が暴走しました。
 
 こういう甘え方をされると、あたしの心はぐらぐら揺れるんだ。

 母性本能を擽られて。


 ああ、ナツを悲しませたくないと思ってしまう。


「しーちゃん、僕のお部屋に来て、ねぇ?」


 なんでこんなに目をうるうるさせて必死なんだろう。

 いじらしさを通り越して、切迫感が見える。

 ああ、あたし……拒みきれる?


 そう、惑い始めた時だ。




 ガンッ。



 壁に拳を叩きつけるような荒い音がしたのは。



 ……ハル兄だった。




「……シズ。ナツの部屋に行く時は、ナツの部屋の鍵をかけろ。どこぞの輩が暴走して、部屋に押し入ってお前に無体を働くかわからねぇからな」


 まるでそれは自分だと言わんばかりに、底冷えしそうな声を発する。


「大丈夫だよ、波瑠兄。僕が居るからね」


 甘えた声を消し去って、潔く切り捨てたナツの声音は僅かに震えていた。



「……ああ、そうだな。ナツが居れば安心だ」



 吐き捨てるように言うと、ハル兄は一瞬だけあたしを見た。


 凄惨に翳った精悍な顔。

 まだ濡れて見える長い前髪の間から覗く目は、ぎらぎらと猛る激情に支配されていて……。


 だがその正体がなんなのか、あたしにはわからない。

 情欲や怒りと似て非なる、見る者を燃え尽くすような激情。


 ハルはあたしを睨みつけると一言。
 


「……俺は寝る」



 そして背を向けた。


 ブラウスを翻し、哀愁を帯びた広い背中が遠ざかる。


 あたしは無性にそれを追いかけて、泣いて縋りたくなった。



「……しーちゃん。選択肢をあげる」



 それ以上に泣きそうなナツの声がした。



「……しーちゃんが、客間で"ひとり"で寝たいのなら、無理は言わないことにする。しーちゃんの意思を尊重するよ。

だけどね、だけど……誰かと寝てもいいというのなら」



 ぎゅっとナツに抱きしめられた。



「……僕は部屋で待ってる。しーちゃんが、僕のところに来るのをずっと……待ってるから」



 切なげな声色が、耳にいつまでも残った――。



「どうして、しーちゃんから、波瑠兄と同じ香りがするんだよ……」


 ……ナツがハル兄の前で、なぜあそこまで必死に、あたしと一緒に寝たいと言い張ったのか、その理由となる呟きを聴き逃して。


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