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目が覚めたら。
第7章 鬼畜帝王が暴走しました。
あたしは、いつもナツがしているように苦めの珈琲を淹れて、部屋をノックした。
どうでもいいような声が聞こえてくるからドアを開けた。
ハル兄の部屋の中は暗いけれど、カーテンをしていない窓から覗く三日月が、細々と照らす月光にて、ハル兄は白衣姿のままベッドの上に横になっているのがわかった。
目の上には片手が置かれ眠っているようにも思えるが、返事がしたということは起きてはいるのだろう。
部屋の中は、ナツと共に遊んだあの風景からは一転し、書棚から取り出したのだろう分厚い雑誌が机の上だの床だのに散乱し、モノトーン基調のシンプルだった部屋の中は雑然としている。
また猥褻な本でも読んでいたのかなと思ったが、それらの乱雑に放られた本は、専門的な医学書らしきものだった。
医者の不養生……ハル兄は具合悪いのだろうか。
「ああ、いつも悪ぃな、ナツ。そこに置いておいてくれ」
珈琲の匂いだけで、あたしをナツだと勘違いしているらしい。
というかハル兄、ナツには"悪い"なんていう言葉使うんだ?
なんだか腑に落ちない心地になりながら、机の上に珈琲カップを置いた時だ。
依然身じろぎひとつしないハル兄が、気怠げに……そして暗い声音で言ったのは。
「……ナツ。今日俺の検査結果が出た。総体的診断だ」
そして一呼吸おいてから、ハル兄は声を震わせて言った。
「……結果はどれも……予想通り最悪。完全末期だ」
"検査"、"最悪"、"末期"。
どくんっ。
心臓が驚きの音を立てる。
その不穏な単語の羅列の響きは、あたしから血の気を引かせた。
「弟のお前にだけは言っておく。だが他言無用で……」
耐えきれず、あたしは叫んだんだ。
「ハル兄――ガンなの!?」
あたしは壁のスイッチを押して、照明をつけた。
「……は!? シズ……!? ナツは!?」
あたしを見て、驚愕に目を見開くハル兄の顔。
久々にまじまじと見た帝王の顔は、いつもの余裕さなどなにもない、今にも消えそうなほど儚げで……やつれきったもので、彼に襲いかかった事態は冗談ではない、本当のものであることを物語っていた。