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目が覚めたら。
第7章 鬼畜帝王が暴走しました。
 

 消える――。

 あたしの人生の頭の方から関わり、尋常ではない存在感を放つ帝王が、この世からいなくなってしまう。


 そう思ったら、全身に震えが来る。


 どうしてもその現実を受け入れることが出来ないあたしは、大きな声で泣いてハル兄に抱きついた。


「やだよぉぉぉ。ハル兄と別れるのはいやだよぉぉぉっ!! 置いていかないでよぉぉぉ、あたしはどうなるのよぉぉぉぉっ!! あたしを治してくれるって言ったじゃない、担当医が先に逝くなんて反則すぎるよぉぉぉっ!!」


「……シズ」


「ハル兄の馬鹿ぁぁぁっ! あたしをあのままイカさずして、他の女とイチャコラして、なけなしの体力使ってなんでこんなよぼよぼになるのよ!! どうして延命の快復力に体力使用しないのさ、この女ったらしっ!」



 ハル兄は――



 スコーーーン。



 彼の胸にいるあたしの後頭部を思いきり叩いた。


 まるで雅楽の、鼓のように、軽やかないい音がした。

 ……あたしの頭に空洞があることは間違いない。

 
「俺が死ぬ死ぬ縁起悪ぃこと言うな。本当に余命幾許かのよぼよぼジジイになった気になるじゃねぇか」

「だってそうでしょう!? 元気ならふんぞり返ってよ、しっかりご飯食べてよ!!」


 ハル兄はため息をつきながら、目を伏せる。



「出来ないんでしょう!? もう隠し立てなんて出来ないんだから、辛いなら辛いって言ってよっ!!」


 ハル兄の目がゆっくりと開いた。


 憂いを帯びた切れ長の目。

 意外に長い睫毛に縁取られている。


 黒曜石のような漆黒の瞳が、潤んだ膜を張り……切実な光を宿した。



「……あぁ。……辛ぇよ、シズ」



 端正な顔が、苦しげに歪められる。



 弱音を吐かない帝王の弱音。

 あたしの目からは、またぶわりと涙が零れた。



「どこが辛いの、言ってみてっ!!」

「……それは言えねぇ」

「もう知っているんだからいいじゃない、言ってよ、言えっ!!」

「お、おま……首締めるなアホタレっ!!」


 げほげほ始めたから慌てて、あたしはハル兄の首から手を離す。


「シズ。これ以上は言えねぇんだよ……。絶対言えねぇ」


 ハル兄が辛そうに目を細める。
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