この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
目が覚めたら。
第7章 鬼畜帝王が暴走しました。
消える――。
あたしの人生の頭の方から関わり、尋常ではない存在感を放つ帝王が、この世からいなくなってしまう。
そう思ったら、全身に震えが来る。
どうしてもその現実を受け入れることが出来ないあたしは、大きな声で泣いてハル兄に抱きついた。
「やだよぉぉぉ。ハル兄と別れるのはいやだよぉぉぉっ!! 置いていかないでよぉぉぉ、あたしはどうなるのよぉぉぉぉっ!! あたしを治してくれるって言ったじゃない、担当医が先に逝くなんて反則すぎるよぉぉぉっ!!」
「……シズ」
「ハル兄の馬鹿ぁぁぁっ! あたしをあのままイカさずして、他の女とイチャコラして、なけなしの体力使ってなんでこんなよぼよぼになるのよ!! どうして延命の快復力に体力使用しないのさ、この女ったらしっ!」
ハル兄は――
スコーーーン。
彼の胸にいるあたしの後頭部を思いきり叩いた。
まるで雅楽の、鼓のように、軽やかないい音がした。
……あたしの頭に空洞があることは間違いない。
「俺が死ぬ死ぬ縁起悪ぃこと言うな。本当に余命幾許かのよぼよぼジジイになった気になるじゃねぇか」
「だってそうでしょう!? 元気ならふんぞり返ってよ、しっかりご飯食べてよ!!」
ハル兄はため息をつきながら、目を伏せる。
「出来ないんでしょう!? もう隠し立てなんて出来ないんだから、辛いなら辛いって言ってよっ!!」
ハル兄の目がゆっくりと開いた。
憂いを帯びた切れ長の目。
意外に長い睫毛に縁取られている。
黒曜石のような漆黒の瞳が、潤んだ膜を張り……切実な光を宿した。
「……あぁ。……辛ぇよ、シズ」
端正な顔が、苦しげに歪められる。
弱音を吐かない帝王の弱音。
あたしの目からは、またぶわりと涙が零れた。
「どこが辛いの、言ってみてっ!!」
「……それは言えねぇ」
「もう知っているんだからいいじゃない、言ってよ、言えっ!!」
「お、おま……首締めるなアホタレっ!!」
げほげほ始めたから慌てて、あたしはハル兄の首から手を離す。
「シズ。これ以上は言えねぇんだよ……。絶対言えねぇ」
ハル兄が辛そうに目を細める。