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目が覚めたら。
第8章 鬼畜帝王が暴走しました。2
 

 ハル兄が手持ち金でチップを買った。

 円に換算して50万~60万相応だ。

 それだけで見ているあたしはあわわの状態なのに、それを3000万に増やさないといけない。


 カジノという賭博場であれば、客がそう簡単に儲けることを許さず、なんらかの仕掛けが施されているのが定石。

 賭けた金がなくなるのならまだいいが、それ以上に負けてしまう場合だってありえる。


 その借金を賄うためにギャンブルをして……それがギャンブル地獄。

 ハル兄は外車持ちだから、貧乏人では無いだろうけれど、その資産はあくまで彼個人が医者という職業で稼いだものであり、彼の医者としての手腕に見合った正当報酬だ。


 その資産箱の蓋を開けてまでリスクを追うべき賭けではない。

 ましてやこんなあたし如きのために。


 そう思えど、ハル兄は超然とした笑みを絶やさない。

 ハル兄は昔から、負け戦を嫌うフシがあり、同時に極度の負けず嫌いで、力尽くで難関を突破し、敵をねじ伏せてきた男だ。


 あたしが淫魔という特殊な体質になって、ハル兄に下の口にと挿入を願ったのも、ハル兄ならなんとか無事に突破出来るという妙な自信があったことは否めない。……心の奥底では不安になりながらも。


「いいか、時間制限は今から二時間。十時までに3000万にならなかったら、この女をひと晩貰うぞ」

「ああ。十時までに3000万にできれば、迷惑料としてお前から貰う」


「はああああ!?」

「当然だろう。それだけのリスクを賭けて、お前のぼったくりに乗ってやってるんだ。オトコなら腹くくれ」


 なんだなんだと野次馬が集まる。

 事情なんて知らぬくせに、ハル兄の妙な男気溢れる台詞に賛同者続出。


「――くっ……。わかった。すべては十時までの金次第だ」


 絶対高くつきすぎるナンパをしたと思う。

 ハル兄の威圧感にビビリまくりのぼったくりナンパ男も、引くに引けない状況になったらしく、それでも自分が必ず勝利する勝負だと信じているらしい。怯んだ顔、上擦る声音を周囲に見せつけるそれは、ただの虚勢の賜物としてしかあたしの目には映らない。


 それでも一抹の不安。


「馬鹿ねぇ。あのひと……ここのカジノオーナーの息子さんなのに」


 そんな声が聞こえてきたからだ。
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