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目が覚めたら。
第8章 鬼畜帝王が暴走しました。2
 

「お見知りおきを。佐伯波瑠さん。……葉山静流さん」


 なんとあたしの名前まで御存知らしい。

 前にいるハル兄の手があたしの腰に回り、力がこめられた。


 警戒しろ。


 そんな合図のようにも聞こえる。



「嫌だなあ、そんな恐い顔しないでくださいよ。ただのご挨拶ですって。あなたが恐い顔するとシャレにならなくなる。そう思いません?」

「……まあ確かに」

「シズ、なにも答えるな」


 怒られてあたしはお口チェック。

 あたし達の名前を知っているのは怪しいけれど、あたしはハル兄ほど警戒心は持っていなかった。

 それどころかにこにこ笑っている顔は、どうしてもナツを彷彿させるから、拒絶感がわかないのだ。


「ねぇ、佐伯さん。ひとつ提案があるんですがね?」


 片倉と名乗った男は、足下のトランクを開けた。


「ここにあるのは2000万。もしあなたが勝てば、これをお渡しします。ですがもし僕が勝てば……」


 ナツに似ているアーモンド型の目が、細められた。

 ……剣呑に。


「静流さんをいただきたいのです」

「却下。行くぞ、シズ」


 振り向いたハル兄があたしの肩に手を回して、ルーレット台から立ち去ろうとする。


「勝てる自信がないんですか?」


 男はくすくすと笑いながら言った。


「いつものように"どうせだめだから"と逃げ回り、やっと勝負を決心したと思えば、時遅く。若さも勢いもないあなたに、"選ばれる"自信はどこにあるのでしょうね?」


「おい、お前……っ」


「小さいプライドを守るために私との勝負から逃げるのなら、その足下掬いますよ、ふふふ。……私がね。

私を負かすこともできないのなら、静流さんの相手になりえない。あなたがどんなに頑張ろうと」


「てめぇ……っ」

「ハル兄、喧嘩は駄目っ!!」


 持ち上げられた拳をあたしは必死に抱きつくようにして制止する。


「私に、勝てる自信がないんですか?」


 超然と、ナツのような美麗な顔の男が挑発する。


「受けてやるよ。おい、ぼったくり!! 参加者追加だ。お前がゲームの種目を選べ」


 いきりたつハル兄は上着とベストを脱いであたしに手渡し、ブラウスのカフスボタンを外した。


「じゃあ、ポーカーで」


 ぼったくりが選んだのは、ギャンブルの定番だった。

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