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目が覚めたら。
第8章 鬼畜帝王が暴走しました。2
 


 テラスには人はおらず、誰もが室内で楽しんでいる。

 あの喧噪はまるで幻のように消え、あの興奮の坩堝の中心にいたハル兄が、こうした静謐な風景の中で、平凡極まりないあたしを傍に置いてくれることが、奇跡的な事象にも思えてくる。


 帝王は肉を貪り、手にしていたストレートのウィスキーを一気に喉奥に流し込んでいる。

 さらにボーイを呼んで、五杯分のウイスキーを飲んだ。


 渇望が薄れたあたしに客観的な思考が戻れば、どう見てもハル兄は、行き場のない怒りを抱えてヤケ酒しているように思えた。


 そりゃあそうだ。

 あたしはハル兄がEDで悩んでいるのを知りながら、EDでは成し遂げられない、かつての姿を求めたんだ。

 思いきり、あたしはハル兄のプライドを傷つけた――。



 ハル兄の僅か紅潮した顔に、乱れた漆黒の髪が風に揺れる。

 憂いを帯びた切れ長の目が、時折苦しげに細められた。



「ハル兄……ごめん」

「なにがだよ」


 ぶっきらぼうに返ってくる。


「賭けに頑張って貰ったのに、あんなところで発情した上、キスしちゃって」

「………。今はどうなんだよ」

「落ち着いた。もうあんなことはない。人前でごめんなさい」

「……シズ。ちょっと来い」


 ハル兄は酒に僅かとろりとした目であたしを見て、テラスの端に連れた。


「俺が苛立ってるのはそんなことじゃねぇんだよ」


 そう言うと、ハル兄はあたしのスカートを手で滑らせるようにして上にずり上げると、足をぐいと持ち上げ……テラスの手摺にひっかけたのだ。


「な!!」

「黙れよ。確認させろよ、俺に」


 そしてハル兄は、皆の目から隠すような死角にその大きな体を動かすと、驚くあたしの抵抗を退け、ショーツをまさぐった。

 ショーツは、夕子さんに言われるがまま……下着の線が服に響かないようにと配慮した、人生初のTバック。ストッキングをはいていなかったのが祟り、簡単に侵入を許すことになった。


 ショーツの横から潜らせられた指。そして布地がひっぱられ、ぱちんと弾かれる。

 不愉快そうにハル兄は言った。


「どうしてこんなに、濡れてんだよ」


 お酒臭い、底冷えするような声で。


「あの男に……なに濡らしてんだよ、シズ!!」


 かなり苛立ったものだった。

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