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目が覚めたら。
第8章 鬼畜帝王が暴走しました。2
 


 ハル兄の切れ長の目がぎらついている。

 隠しきれない激情の正体は――怒り?


 怯んだあたしは、思わずハル兄から遠ざかろうと手摺に置かれた足をまず下ろしにかかったが、ハル兄は足を掴んでそれを許さなかった。


「シズ。俺を見ろ」


 見ろと言われても、恐くてその顔が見れない。

 昔から、怒った帝王はなによりも恐いんだ。


「シズっ!!」

「はぃぃぃっ!!」


 恐る恐る視線を合わせた。

 ぎらついた目が、苦しげに細められていた。


「なぁ……戦地に赴く闘うオトコってのは、無性に気が昂ぶるんだよ。その前からしてお前の格好、俺を煽り過ぎてんだよ。それじゃなくてもぶち込みたいのにぶち込めない現実にイライラして、傷つけたくないものを傷つける自分に、ますます苛立っていて。その間にお前が拉致られそうになって、ブチギレ寸前なのを、これでも必死に我慢している」


 ぎゅぅっと、なにかに耐えるように、眉間に縦皺を深く刻まれる。


「その俺を前に、会ったばかりのオトコに勝手にキスされて。それに対して、俺が機嫌悪いからという理由で、"キスしてごめん"? 俺の機嫌が悪くなければ、お前は上機嫌だったわけか?」

「そんなわけ……」

「じゃあなんで、こんなに濡らすまでキス如きで感じんだよ、シズ!! なんで嫌がらねぇ? なんで警戒しねぇ!? なんでゲーム最中もあいつを目で追っていた!?」

「あたしただ……」


「ナツに似ているからか……」


 ハル兄は剣呑に目を光らせ、乱暴に髪を掻き毟る。


「つまり、俺を通過して、行き着くところはナツなんだろうが」


 あたしを見るその目は暗澹としていて、昏(くら)い。

 昏いのに……炎が揺らめいている。


「俺とナツなにが違う。若さか? ED知らずの、何度でも精を放てる元気良さか!?」


 ゆらゆらと、燃え盛る直前の炎が……。


「俺がどんなに腹括ろうと、お前は濡らすほどナツが……」


 ナツ、ナツ、ナツ、ナツ……。


 なんでそこにナツが出るの。

 怒る理由をここに居ない弟のせいにすんなよ、ハル兄。

 あたしが濡れたのが原因なら、ぐだぐだ言わずにあたしだけを怒ればいいじゃないか!!


 ぶちっとあたしのどこかでキレた。

 この分からず屋、どうしてくれよう!!
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