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目が覚めたら。
第9章 変態王子様の奮闘
 

「ナツ……大丈夫?」


 あたしを護る王子様はなにやら思案顔。

 かなり負担なのではと声をかけて見れば、


「うん……大丈夫」


 そう爽やかに笑った。


 そして――。


「――っ!?」



 顔を傾けてキスをしてきたのだった。


 な、なんですか突然に!!


 幸運にも、周囲は自分の体勢保持に懸命で、あたし達のことに気づた者はいない。

 もし気づいていたとしても、ナツの体で覆うような体勢は、外からはなにをしているのかよく見えないだろう。


「ナ、ナツ……!?」


 素っ頓狂な声で狼狽するあたしに、ナツは妖艶な顔で笑う。


「ねぇ、しーちゃん。……逃げ場ないね?」

「え?」


 ナツはあたしの両横に手をつけたまま、ぐっと体を密着してくる。

 そして唇をあたしの耳もとに近づけて囁いた。

 ……傍目では、人波に押された格好だ。


 鼓膜に、ナツ特有の吐息のように吐き出される甘やかな声が拡がる。


「僕ね……試してみたかったんだ。満員電車の……痴漢ごっこ」


 最後にくすりとした笑いが、耳に届いた。


「はいっ!?」


 驚くあたしの唇に、ナツは笑いながら彼の人差し指をたてた。

 そして距離感10cmもないところで、とろりとした眼差しをして、キスをするように尖らせた唇をあたしに向けて、挑発してくる。


「時間は到着までたっぷりある。さっき……時間に迫られて、しーちゃん消化不良だったでしょう?」


 声や眼差しが、甘い甘い王子様。

 気を抜けば、引き摺られそうな強い誘惑。


「い、いえいえ! そりゃあもうたっぷり堪能しましたとも!」


 するとナツは――


「僕はね、消化不良。もっともっと、しーちゃんを抱きしめて、その体温を確かめながら……しーちゃんの可愛い顔と啼き声、聞いていたかった。

……しーちゃん、僕ね……」


 あたしの首筋に舌を這わせながら言った。


「ここ数日、あまりにしーちゃん不足だったから、また欲しくなっちゃったんだ。……ねぇ……しーちゃん」


 あたしの首元から見遣るナツの目と視線が合った。

 この満員の中、放たれる……むせ返るような――、


「……しよ?」


 ナツの、オトコの艶香。


「すごくえっちなこと。ふふふ……」



 変態王子様……降臨?

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